プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

2015-01-01から1年間の記事一覧

「朝露」と「渚にて」

冬至が近いというのに、季節外れの朝露の話である。 先日、カースティ・マッコールの命日に「They Don’t Know」が自分にとって重要な曲であることを書いた( 追憶のカースティ・マッコール - プログレッシブな日々 )が、同じぐらい自分にとって大きな意味…

追憶のカースティ・マッコール

12月になると聴きたくなる曲の一つが、ザ・ポーグス『フェアリーテイル・オブ・ニュー・ヨーク』(下記リンク)。この曲でポーグスのシェイン・マクガウアンとデュエットしているのがカースティ・マッコールだ。この時期にこの曲を聴きたくなるのは、クリス…

師走の嵐が丘にて。

「エレン、あとどれくらいしたら、わたし、あの丘のてっぺんまで行けるようになる? 丘の向こう側にはなにがあるのかなあ──海?」 「違いますよ、キャシー嬢ちゃん」あたしは答えたものです。「これとおなじような丘が連なっているんです」 (エミリ・ブロン…

敗戦70周年の年の開戦の日

youtu.be 今年は終戦(敗戦)70周年という区切りがよい年なので、日米開戦の12月8日にはあのバカげた太平洋戦争開戦についてさまざまな論評でメディアが賑わうかと思ったが、そうでもなかった。ひょっとしたら私が知らないところでもりあがっているのかもし…

「平成」と「昭和」の狭間で「明治の人」を想う

昭和天皇が亡くなった時、私は27歳だった。今朝ふと気づいたのだが、今年54歳の私は昭和と平成をちょうど27年ずつ生きていることになる。今後は平成の年数だけが増えていくわけだ。自分を「昭和の人」と思い込んでいたから、このことはちょっとした驚きだっ…

星が見えない夜の地下鉄車内の魔女

窓の外を見ていると、いろんな場面が目に映る。 窓の外を見ていると、いろんな人が生きている。 でもなんかおかしい。どうにもヘンだ。 ちょっとしたことでも見逃すな。 ちょっとしたことでも見逃しちゃダメ。 どんなにつまらないことでも見逃さないように。…

人間は考える葦、かもしれない。

二つの似寄った顔は、いずれも別々では人を笑わせはしないが、一緒にならぶと、その相似によって人を笑わせる。 (パスカル『パンセ』第2綴「空虚」 松浪信三郎訳 より) 講談社文庫版『パンセ』をおよそ30年ぶりに手に取ったら、上記引用文のあるページに…

太宰治から村上春樹へ

『本の雑誌』最新号(390号)の特集が太宰治だというので早速購入した。特集内容は以下の通り。じつに素晴らしい! ■特集:「太宰治は本当に人間失格なのか?」 対談/ダメ人間作家コンテスト! 西村賢太vs坪内祐三 コラム/編集者某が明かす作家借金伝説! …

あるロシア人女医の思い出

美味しいロシア料理を食べながら、思いを馳せたのはうちの近所にある病院の創立者・故武谷ピニロピ先生の病院だ。この奇妙な名前の女医さんは、僕の小中学校時代、眼科の校医であった。ちょっとおっかない外人の婆さんという印象があるが、今となっては懐か…

夢を見た。

Eurythmics - Sweet Dreams (Are Made Of This ... ・・・仕事に追われる中、あまりにも不勉強な自分に愛想をつかして、大学に通い直すことにした。今度は文学部なんていう愚にもつかない学部ではなく法学部に入学する。しかし、学生となった私にも容赦なく…

タコとブロッコリーのスパゲティ

イタリアで暮らすようになってから、いろいろな家庭料理を知ることになりました。そこで大きな発見をしたのです。 それは「イタリア料理って、世界一簡単なんだ」ということ。別の表現をすれば「簡単なほどおいしいのがイタリア料理」 (タカコ・半沢・メロ…

ヒットチャート嫌いだった私のオールタイムベスト20

10代の頃、ヒットチャートっていうのが大嫌いでした。 いや別に「音楽の商業主義を排す」….. なんていう子どもっぽいお題目を唱えるつもりはありません。 商業主義、大いに結構じゃないですか! 優れたミュージシャンはどんどん儲けるべきです。 むしろ60〜7…

日本人は笑えない

三十年間で何が失われたかと言えば、まともな嫌悪感である。(中略)〈良識〉というとおとなしくきこえるが、その元になるのも、嫌悪感である。 (小林信彦「平成つれづれ草」『日本人は笑わない』所収) 上の引用はバブル崩壊後の日本社会の有り様に触れて…

映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』雑感

8/1公開!映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』公式サイト 先週、ブライアン・ウィルソンの伝記映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』を見た。予想通りの、いや予想以上に素晴らしい作品であった。しかしこの映画が純粋に一人の男を主人公とし…

Struggle for Life 〜ソコソコの人生について〜

写真はハンガリーのプログレッシブロックバンドAfter Cryingのライブアルバム「Struggle for Life」。ジョン・ウェットンをゲストに迎えての“Starless”も収録されています(ジャケ画像をクリックするとAmazonへのリンクページへ)。 「汝この門より入る者、…

わがソドムへようこそ

ソドムとゴモラの叫びは大きく またその罪は非常に重いので 私はいま下って 私に届いた叫びのとおりに すべて彼等がおこなっているか どうかを見て それを知ろう (大島弓子『わがソドムへようこそ』) 大学4年の春、社会に出る前に裏社会について見聞を広…

退化する意思

ぼくは小さなころから、妖怪っていうのは、本当にいるのではないかと、両親や先生に質問し、そのおろかさをわらわれたことがあった。 ぼくはその妖怪で、いまはめしを食っているわけだ……。 (水木しげる『ほんまにオレはアホやろか』) 自らに内在する探求心…

『Roger Waters The Wall』に圧倒される

昨日9月29日一日のみの上映(しかも国内4箇所のみ)という「Roger Waters The Wall」を見にいった。FBフレンドからの情報で、当日の昼に上映があるのを知り、仕事を慌てて片付けてから、上映会場であるイオン板橋店に駆けつけた。平日一日のみの上映。う〜ん…

普通に生きるための覚え書き

ただ一群の文学者たちのうわずった、気狂いじみた、地球の滅亡を憂えうるといった最大限の嘘と喧噪に、できるだけむきにならず「現在」の現象のひとつとしてからかいの対象にしたかった。つまり真剣にからかったのだ。わたしは、そのために大事な知己たちを…

How Soon Is Now? 〜 9月の思い出

So you go, and you stand on your own, and you leave on your own, and you go home, and you cry, and you want to die (The Smiths「How Soon Is Now?」より) 20代半ばの頃、パンクバンドの雇われベーシストをやった。加入して2週間後にライブの予定…

マーク・ボランが死んだ夏休み明け

1977年の髙1の夏休み。その年は極端な冷夏だった記憶がある。野外も部屋の中も冷え冷えとする。もちろん、何日かはいわゆる夏日もあったのだろうが、寒々とした記憶ばかりが残る奇妙な夏だった。 そうなのだ。ほとんど暑かったという記憶はない。そんな夏は…

開高・三島、そして戦争を知らない子どもたち

最初にいっておくと、この一連の文章には結論はないし、それどころか明確な論旨さえない。最近、「戦争と平和」「生と死」について考えたことをそれほど脈絡を気にせず、なんとなく結びつけながらまとめただけのモノである。私以外の人が読んで面白いかどう…

風に語りて(I Talk To the Wind)

生真面目な男が、遅れてきた男に言った。 「お前はどこにいたんだ?」 「僕はここにいたし、僕はあそこにいたし 、 そしてその真ん中あたりにもいたのさ」 僕は風に話しかけた。言葉はみんな運び去られてしまう。 僕は風に話しかけた。 風は聞いてはいない…

Der Steppenwolf

その日は、いつもの日々が過ぎるように、過ぎ去った。私は自分流の単純小心な生活技術で一日を口説き落とし、じわじわと絞め殺した。数時間仕事をし、古い本をひっくりかえしてみ、二時間にわたって、老境に入る人間につきものの苦痛を味わった。 (ヘルマン…

黄門様に著作権はあるのか?

今回の五輪エンブレム騒動のおかげで、あらためて著作権の重要性が広く知れ渡ることになったんではないでしょうか? たとえば SNSやブログにネットで拾った画像を使用することはどのようなリスクがあるのか、多くの人が考えるいいキッカケになったと思います…

言葉が足りない。

「わたしが、東京に出ん理由は、ですね」と香川登志緒は強調した。「〈なんでやねん〉という言葉にあたる標準語がないからです。東京は、言葉が少ない」 (小林信彦『日本の喜劇人』「大阪の影」より) 東京語(共通語というべきか)は確かに、言葉のニュア…

Memento mori 〜墓を買った話〜

今夏は昨年9月に死んだ父の新盆である。パソコンのアーカイブを探ってたら、9年前に書いた文章が出てきた。父が墓を買った時の話である。懐かしいので 以下に再録。 先日、父親が自分が入る為の墓地を購入した。そこは自宅から徒歩で行ける浄土宗の寺院内に…

Memento mori 〜 死を憶(おも)え〜

www.youtube.com お盆で空いている電車に揺られながら、掌の中のぬくもりが消え去っていく。 デスクのパソコンのキーを叩きながら、遠くの方で起きている爆撃の音を聞いている。 私たちの中の宗教が、私たちをジェノサイドの崖っぷちに誘っていくのを 世代を…

夏空 〜 Summer's almost gone〜

そろそろ夏も終盤に差し掛かろうとしている。 私は、爽やかな夏空を見るたびにふと思い出すことがある。 小学校4年の時の朝礼。いつものようにS校長先生が、朝礼台に昇り、マイクロフォンの前に立ち、お話を始めようとしていた。綿飴のような白い雲がぽっか…

『フォーカスな人たち』井田真木子再読 〜悲しみの黒木香〜

今週のお題「読書の夏」 Amazon.co.jp: フォーカスな人たち (新潮文庫): 井田 真木子: 本 ところで“わたくし“は女性とは限らない。というより、あまりにも強烈な“わたくし“の前には性差など消し飛んでしまう。たとえば黒木香はまさにその典型だった。彼女は…