プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

NETFLIX『舞妓さんちのまかないさん』が素敵すぎる。


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仕事が立て込んでいるにもかかわらず、あまりにも魅力的なドラマで、先週Netflixで公開された全9話をすべて観てしまった。“総合演出”として是枝裕和監督がクレジットされ、各エピソードは是枝監督単独を含めた4人の監督が交代で、もしくは是枝監督とのペアで担当している。是枝監督は脚本も一部担当されているようだ。


この映画はとにかく映像が素敵すぎる。舞妓さんの生活の場、お座敷、京都の町並みと人々、そしてまかない料理……あらゆるシーンを静止画として切り取って部屋に飾っておきたいほど美しい。詳しくは知らないけど撮影スタッフ、美術スタッフも相当の手練れが揃っているのだろう。音楽は菅野よう子で、美しい映像を際立たせる音の背景づくりはさすがの手腕だ。

そして演技、演出の人物造形の確かさ。中学卒業後に青森から出てきた主人公の二人の少女を含む登場人物が、実にナチュラルに動き回って物語が進んでいく。主人公の二人がキャッキャと笑いあう、先輩の舞妓さんたちのガチャガチャしたり、まったりしたりの普段の姿、舞妓・芸妓を見守り支える大人の男女たち……実にナチュラルに人々が描かれ、それぞれが画面の中で思い、考え、行動する。トップ芸妓の橋本愛も息を呑むほど美しい。それでいてホラー映画オタクであるという映画ならではのキャラクター設定が楽しい。

主人公の二人のあまりに自然な演技とそれを支える人々の「引き」の演技がとにかく間然するところがない。ここには民放テレビドラマでおなじみの大根役者は一人もいない。おそらく京都ネイティブ、祇園での遊興経験者の視聴者でも、この映像世界に違和感を覚えないのではないか。

原作のマンガも読み始めたが、こちらも素敵な作品で、映画はその作品世界を大切にしていることがわかる。同時に映画には是枝監督によるオリジナル重要登場人物が3名登場する。松坂慶子の先代おかあさん(置屋のおかみさんのこと)、松岡茉優の関西のおばちゃんノリの出戻り芸妓、蒔田彩珠の当代おかあさんのツンデレ高校生娘。この3人が作品世界の奥行きをぐっと広げて、是枝色を濃厚に感じさせてくれるのだ。松岡茉優は新境地開拓と言えるかもしれない。

 

既存の当代おかあさんの常盤貴子と著名建築家の井浦新とのプラトニックな恋も映画ならではの味わいを付け加えている。(井浦新が講師を務めている大学が、昔、広報誌制作の仕事で通ったことがある京都工芸繊維大学なのがちょっとうれしかった)。そしてまた主人公たちの置屋に併設されたバーのマスターであるリリー・フランキー常盤貴子に密かに片思いしていて、この「片思い」というのも他の登場人物を含めて作品の重要なモチーフとなっている。次のシーズンでは様々な「片思い」がストーリーを動かしていくのではないか?

そうそう先代おかあさんの松坂慶子の初恋のエピソードもあり、その相手は実在の歌舞伎役者である坂東彌十郎なのだ。その彌十郎が本人役で出てきて、松坂との60年ぶりの再会を果たし、実は両思いであったことをあらためて確認した微笑ましくも感動的なシーンもあった。その際、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』出演中の彌十郎のところには脚本打ち合わせのために三谷幸喜が訪れており、彼も本人役でドラマに出演。置屋のバーで舞妓さんから「うちらも『鎌倉殿』に出たーい!」とせがまれて、「じゃあ、出ちゃおうか、みんな出ちゃおうか」とおやじノリで応じるシーンには笑った。

とつらつら、一気に感想を書いてしまったが、一度観ただけではこのドラマを十分味わえた気がしない。何度も繰り返し観ながらセカンドシーズンに備えたいと思う。