師走の嵐が丘にて。
「エレン、あとどれくらいしたら、わたし、あの丘のてっぺんまで行けるようになる? 丘の向こう側にはなにがあるのかなあ──海?」
「違いますよ、キャシー嬢ちゃん」あたしは答えたものです。「これとおなじような丘が連なっているんです」
子どもの頃、いくつかの土地に住んだ。それぞれの土地で丘の向こうに憧れ、成長とともに自転車を駆って丘を越え、それはとてもスリリングな体験であったが、向こう側にあったのは、やはり別の丘であった。そうした記憶や丘の向こうの光景などを眠る間際にふと思い出すことがある。胸が夕日を含んだようにあたたかくなり、やがて、悲しみまじりの苦しさを覚える。いや、子ども時代の話とは限らない。むしろ1年1年の丘を越すことに汲々とする現在の方が……。そこで中年男は丘をやり過ごし、水の中に釣り糸を垂らすのだ。