プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

春来たりなば…

フライの雑誌 124(2022春号): 特集◉3、4、5月は春祭り 北海道から沖縄まで、毎年楽しみな春の釣りとそのとき使うフライ|『イワナをもっと増やしたい!』から15年 中村智幸さんインタビュー|島崎憲司郎さんのスタジオから 3、4、5月に欠かせない釣りと、その時使うフライパターン一挙掲載!

フライの雑誌 124(2022春号): 特集◉3、4、5月は春祭り 北海道から沖縄まで、毎年楽しみな春の釣りとそのとき使うフライ|『イワナをもっと増やしたい!』から15年 中村智幸さんインタビュー|島崎憲司郎さんのスタジオから 3、4、5月に欠かせない釣りと、その時使うフライパターン一挙掲載!

 

 

 冬来りなば春遠からじ…私たちはコロナ禍という長い長い冬を耐えてきた。愛読している『フライの雑誌』最新号は、「3,4,5月は春祭り」という特集で、全国の釣り人たちが、春を満喫できる自分たちの釣り場と魚、そして使う毛鉤などがカラー写真を交えて紹介されている。なかなか釣りに行けない日々を過ごしているが、読んで、見ているだけで気持ちだけは爆上がりである。ちなみに私のメールアドレスに使われている「indoorffm」という謎の文字列は 「Indoor FlyFisher Man」、すなわち家で妄想を膨らませている釣り人という自嘲から付けたものだ。


 解禁となるヤマメ、イワナなどの渓流はもちろん、湖、海と春の訪れを満喫するフィールドは人それぞれ。フライフィッシングというと、こじゃれたトラウトフィッシングの釣りというイメージであるが、もはや日本各地域に即した足が地に着いたフライフィッシングが根付きつつあることを実感させられる特集であり、この雑誌がそのために果たしてきた役割の大きさをあらためて感じた。かくいう私も近所の川の四季をフライロッド(時にはルアーロッド)によって実感しているのだ。
 そんなウキウキする誌面の中に釣り仲間の突然の事故死に関する長いエッセイが掲載されていることも、この雑誌の侮れないところだ。写真も何もなく文字だけで10ページにも及ぶ。仲間の死への悔恨と「こういう釣り仲間がいたんだ」という記憶を誌面に焼き付けておきたいという筆者の気持ちが溢れだしそうな読みごたえがある文章だった。
 釣りは楽しい。しかし自然が相手だけにつねに危険と隣り合わせであることも否定できない。うちの近所の川ですら時には牙をむく。2年前には公団団地の前を流れる淵になった部分で小学生が深みにはまって溺死した。4年前には同じ川の下流で高齢の釣り人が大雨の中釣りをしていて流され、7~8km下流で土座衛門となって上がった。さすがに近所の川ではないが、私も谷が深い渓流単独釣行の際に、「ここで足を滑らしたら、一巻の終わりだな」と肝を冷やした経験が数回ある。
 それでも釣り人は川へ向かう。もちろん死に出会うためではない。いま、ここで、自分が生きている実感を確かめるように水辺を歩き、釣竿を振る。釣り糸を通して伝わる魚のアタリと躍動感を自分の心臓の鼓動のように聞き、恋人を寝室にいざなうように慎重に釣竿を操るのだ。

 

 結局、何が言いたいかといえば、「春来たりなば、釣り遠からじ」。ようやくの春なんだから、一刻も早く釣りに行きたいでござるよ。カモーン、ヤマメちゃーん!