プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

日曜日の午前中、ブレヒト『三文オペラ』を読む。

三文オペラ (光文社古典新訳文庫)

三文オペラ (光文社古典新訳文庫)

 

東京五輪のおかげでテレビを見なくなったので、積読を鋭意処理中。今日の午前中は学生時代に確か千田是也訳を読んで以来の『三文オペラ』。新訳はとてもこなれていて、このまま舞台で使えそう…と思ったら、あとがきに新国立劇場の宮田慶子舞台監督からの依頼で舞台向けに訳されたものだと書かれていて納得した。戯曲というのは、上演されて初めて完成形となるものなので、読むという行為に不全感が付きまとうが、逆に読むという行為の中でイマジネーションを広げる余地も広い。乞食と盗賊と娼婦を中心としたこの物語には、いわゆる下品な言葉やエピソードが満載。劇中歌は放浪と無頼のフランス詩人フランソワ・ヴィヨンからのインスパイアが多く、翻訳もそこらへんのイリーガルで猥雑な雰囲気をよく伝えている。訳者解説で「言葉を隠すことは事実を隠蔽することと表裏一体」と、文学作品に対する過度なポリティカルコレクトネスの発動に警鐘を鳴らす。
本作品は舞台でも、女たらしの盗賊首領メッキーズが主役として扱われてきたし、私もずっとそう思っていたが、この翻訳では彼を取り巻く女性たちが生き生きと描かれており、その印象が覆る。光文社古典新訳文庫の特色でもある詳細な解説を読みながら、実は女性たちが繰り広げる人間の本質に根差すドタバタ劇『三文オペラ』の舞台を見てみたくなった。