プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

ブラインドサッカーの「日本Vsイングランド」戦を見たよ。

 

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3月23日(土)、東京都品川区の区立天王洲公園で開催された国際大会「ブラインドサッカーワールドグランプリ(WGP)2019」を観戦した。

www.wgp-blindfootball.com

 

この大会には日本やアルゼンチン、イングランド、スペインなど世界ランク20位以上の8カ国が出場して、19日から6日間、ワールドカップと同様にリーグ&トーナメント戦で優勝を競った。

 

観戦のきっかけは1月に某大学の体育教員志望者を主なターゲットにしたブラインドサッカーのワークショップの取材だった。当日はブラインドサッカー元日本代表選手の妙技に学生ともども圧倒された。ちなみにその元代表の方は年齢は僕より1歳下の56歳。今も国内クラブチームで現役選手としてプレーしている。ブラインドサッカー以外にパラリンピック自転車競技陸上競技の代表経験もあり、なんと今でも走り高跳びの世界記録保持者だという。見た目はふつうのおじさんだが、実にスーパーアスリートな方であった。

 

その際に日本ブラインドサッカー協会の方からWGP開催のことを教えていただき、なんとか1試合でも見てみたいものだと思っていたところ、釣りとサッカー好きの友人である稲垣さんから東京湾奥シーバス釣りのお誘いがきた。品川~天王洲付近なら昼間サッカー観戦&夜間釣りというダブルヘッダーラクにできる。ということで、前々日に格上のスペインに勝利した日本とイングランドによる準決勝を稲垣さんと見に行った。釣り仕度の防寒着を着込んでもジッとしていると身体が冷える寒い日だった。

 

ここでパラリンピック種目でもあるブラインドサッカーの説明を少々。この競技は障がい者スポーツと呼ばれるが、目が見える人と見えない人が協力して勝利をめざすことに面白さがある。

 

コートとボールはフットサルと同じサイズで、転がると音が出る鈴を仕込んだ専用のボールを使用し、コートはボールがどっかにいってしまわないよう左右を壁に囲まれている。アイマスクを着用したフィールドプレーヤー(4人)が、ボールの音と選手間の声のコミュニケーションでプレー。ゴールキーパーは目が見える人(弱視者も含む)が担当し、フィールドプレーヤーに攻守にわたってコーチングを行う。ディフェンダーは相手のボールを取りに行く場合に「ボイ!(スペイン語で「行く」)」と言う掛け声で自分の位置を知らせないと反則となる。

 

キーパー含めた5人の選手とコート外で指示を出す監督に加えて、相手ゴール裏には選手にゴールまでの距離や角度を教える役割のスタッフ「ガイド(またはコーラーとも)」を配していることもこの競技の面白い点だろう。ガイドはゴールに迫った味方フォワードに「8(m)、60(度)、シュート!」などと声でシュートタイミングを伝える。ゴール近くのフリーキックコーナーキックの際は、ガイドが金属棒でゴールポストを叩いて音を出し、キッカーにゴールの位置を知らせていた。

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ゴールの後ろにいるのがガイド(コーラー)

 

試合中はフィールドプレーヤーの聴覚を邪魔しないように、声援や騒音は厳禁。監督と選手の声以外は、シャラシャラというボールが転がる音だけが響く。しかし、前出の元日本代表選手にうかがったところ「実はパスやドリブル、シュートなどプレーの判断基準は音が3割程度。残り7割は頭の中のイメージに従っている」のだそう。経験値から来る超能力みたいなものか?

 

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さて日本×イングランド戦。日本代表も「10」「11」の選手を中心に技術的には決して遜色なくシュートチャンスも作ったのだが、英国の「5番」と「7番」の選手にフィジカルとスピードの点で圧倒され、後半は次第にゴール前まで突破される展開に。結局は0-2で敗退したが、なかなか見応えのある試合だった。まったく目が見えないはずなのに、選手たちはコート内を転がるボールを足下に収め、相手ゴールにボールをぐいぐいと運んでいく。お互いに相手のボールを巧みに奪取しピンチの芽を摘む技術もすごい。終始緊張感にあふれる試合展開は、(代表選手だから当たり前なのかもしれないが)驚異としかいいようがない。思い切り声援を送りたいのだけど、声を出してはいけないのがつらかった。まあしかし、やはりスポーツは生で見るに限る。

 

なお、翌日の3位決定戦で日本はスペインに敗れて4位に。また決勝はアルゼンチンがイングランドを下して優勝を決めた。

 

国内には北海道から九州までなんと20のブラインドサッカーのクラブチームがあり、全国4ブロックに分かれて秋に国内リーグ戦も開催されている。観戦無料なのでお近くで開催されているようであれば、気軽にのぞいてみてはいかがだろう。

国内チーム一覧 | 日本ブラインドサッカー協会|Blind soccer

 

地域リーグ2018 | 日本ブラインドサッカー協会|Blind soccer

 

夕方からのシーバス釣りは、勘が冴え渡って絶好調の稲垣さんにポイントを先行させてもらいながらもバラシとライントラブルが続いて不完全燃焼だったが、まあ、楽しい1日が過ごせた。次回同じポイントで釣りしたら、70cmオーバーのシーバスが釣れるような気がする。ぜったい釣れるはず。

歴史の行方を決める「兄弟の争い」〜観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書)雑感

 

観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書)

観応の擾乱 - 室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い (中公新書)

 

日本の歴史の転換点には「兄弟の争い」がある。まず最初は実質的な日本建国時の天智・天武の確執(およびそれに起因する壬申の乱)で、次に長岡京をめぐる桓武と早良の確執があった。その後摂関家内部での兄弟の争いなどもあったが、やはりメルクマールとなるのは鎌倉幕府成立時の源頼朝義経兄弟の悲劇じゃないだろうか。そして観応の擾乱足利尊氏、直義兄弟の確執である。どの兄弟の争いでも、双方、もしくは片方は兄弟との不和を心から望んではいなかったということで、周囲の政治状況と自らの立場(天皇、将軍など)から泣く泣く相手と対立するという構図が多いように思える。

足利兄弟の場合、特に双方が相手のことを憎んでいたとは思えない。歴史の素人には詳しすぎるほどのディティールを網羅して説得力十分の本書は、その辺りの機微も踏まえて描かれていると思う。定説に対してもしっかりした裏付けを元に反駁していくスタンスが小気味よい。特に著者は高師直・師泰兄弟の再評価に熱心であるような印象を持った。後の「応仁の乱」(これも将軍家や管領家などの兄弟の闘い)と違って細川顕氏佐々木道誉足利直冬桃井直常などキャラが立つ人物も多く登場する。個人的には著者による〝婆娑羅大名〟佐々木道誉の伝記本を読みたいと思った。

明治維新後の征韓論をめぐる西郷・大久保の争い(帰結は西南戦争)も本質的には兄弟の争いじゃないかと僕は考えている。

今は亡き釣り人のために。


AMAZING GRACE for Mr.T

サクラマス釣りの男性流され死亡 福井市の九頭竜川、1人は救助 | 事件・事故 | 福井のニュース | 福井新聞ONLINE

 

昨夏、友だちのIさんに紹介された大阪のTさんと言う知り合いの釣り人が、先月、サクラマス解禁で訪れていた九頭竜川で亡くなった。 たった一度、酒席でご一緒して、フェイスブックでほんのりやり取りしていただけの私でも衝撃を受けたのに、付き合いが深かったIさんが受けたショックの大きさは想像するに余りある。


大人げなく落ち着きのない僕やIさんと違って、Tさんは大人の嗜みを備えた釣り人だった。亡くなった時の釣行でも慎重に慎重を積み重ねた準備をされて臨み、行動されていたと聞く。それでも不幸な事故は起きるのだ。自然を相手に遊ぶとはそういうことだ。あらためて思い知らされた。

Tさんのご冥福をお祈りするばかりである。そして無性に釣りに行きたい。

『書店主フィクリーのものがたり』(ハヤカワepi文庫/ガブリエル ゼヴィン)を読んだよ。

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)

 

ハヤカワepi文庫にハズレなし! 本好きにとって最高の小説だ。翻訳もいい。
文庫本裏カバーの梗概は以下の通り。

《島に一軒だけある小さな書店。偏屈な店主フィクリーは妻を亡くして以来、ずっとひとりで店を営んでいた。ある夜、所蔵していた稀覯本が盗まれてしまい、フィクリーは打ちひしがれる。傷心の日々を過ごすなか、彼は書店にちいさな子どもが捨てられているのを発見する。自分もこの子もひとりぼっち――フィクリーはその子を、ひとりで育てる決意をする。》

各章を、著名な短編小説のタイトルと主人公フィクリーの作品に対するコメント付した「扉」として始める構成も楽しい。フィクリーと出版社の女性営業とのラブロマンス、死んだ元妻の姉とその夫の不穏な関係、フィクリーによって本好きになる気の良い警察署長ランビアーズとの関係、養女マヤに芽生える小説家としての才能…...一見ほのぼのとしながらも、一貫して不穏な死をめぐる葛藤と悔恨で通底するストーリーテリングは見事だ。最後のハッピーエンドの納め方も悪くない。

主人公はインド系アメリカ人、棄てられていた養女はアフリカ系(と白人のハーフ)。そして作者がロシア系ユダヤ人と韓国系の父母を持つことを念頭に読み直すと、あるいは作品の世界観がより深まるかもしれない。

 

梅原猛『海人と天皇 ~日本とは何か~』再読

 

海人と天皇〈上〉―日本とは何か (新潮文庫)

 先日亡くなった梅原猛は、イマジネーション豊かな古代史への視線で歴史のタブーに挑んできた。聖徳太子柿本人麻呂の怨霊を古代史に持ち込んだその力業は歴史学的には問題が多いのだが、古代史の文脈にそれまでになかった視点を提供した偉業には違いない。『海人と天皇』は、今日に続く象徴天皇制というテーマに切り込んだ梅原古代史の総決算的な著作である。昔、図書館で借りて読んだが、彼の訃報の直後にAmazonでポチって古本を取り寄せた。

 

 梅原によれば、象徴天皇制律令国家の成立にはじまる。本来、律令は皇帝が中央集権的独裁権力をふるうための中国(隋・唐)の制度である。平安時代摂関政治院政による天皇の名目化は、律令制の乱れの結果と語られてきた。しかし、梅原はそれは違うと考える。日本の律令制は中国の制度を忠実に移入したのではなく、天皇権力を骨抜きにする改変が加えられていた。そしてそこから日本的な権力分散の制度の仕組みがスタートしたと梅原は考える。仕組みの設計者は女帝の時代の演出者・藤原不比等。本書では不比等の死後まで及ぶ六人の女帝それぞれの役割と背景を検証し、不比等の“娘”と記録に残る聖武帝の母・宮子が、実は紀州の海人の娘だったという道成寺に伝わる伝説に基づいた大胆な仮説によって、その数奇な生涯をあぶりだしていく。

  宮子の死後には、不比等の力業に押しつぶされたような息子の聖武帝と孫娘の孝謙・称徳帝によるエピローグというにはあまりにドラマチックな後日談が用意されている。道鏡事件にも独自の見解を表明し、孝謙・称徳帝の密通の汚名を濯がんとする梅原の愛に満ちた営為には頭が下がる。それが歴史学的に正しいかといえば、やはり大きな疑問符はつく。しかし、説としては実に魅力的だ。「古代史なんてどうせ正確なところはわかりっこないんだからそれでいいじゃいか」という気にさせられるのだ。

 

 天皇を名目上の絶対者とする藤原不比等が創案した政治権力メカニズムは、平安時代摂関政治院政として確立され、武家政権における皇室・公家権力の棚上げ、そして近代の明治憲法や現行の日本国憲法の象徴天皇でも踏襲されている。付け加えれば武家政権でも北条氏執権政治や室町の管領政治、江戸時代の老中合議制などによって、実質的に将軍権力の棚上げと権力分散がおこなわれていたように、日本的権力の伝統様式といってもいいくらいだ。現在の安倍晋三首相はそういうことを無意識下に理解して、傀儡としての自分を上手く演じているように思える。そしてメカニズム創案者・藤原不比等は父親の鎌足以上に史料からその素顔が見えてこない人物だが、その不鮮明な行跡こそが裏権力に徹する彼の強い意志の証拠と考えることはあながち間違いではないように思える。

私には「万世一系」などという軽薄な絵空事より、世紀を超えた「傀儡権力メカニズム」の方が日本という国の“凄み”を表していると思うのだが、いかがだろうか?

 

海人と天皇〈上〉―日本とは何か (新潮文庫)

海人と天皇〈上〉―日本とは何か (新潮文庫)

 

 

海人と天皇〈下〉―日本とは何か (新潮文庫)

海人と天皇〈下〉―日本とは何か (新潮文庫)