プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

ワールドカップと喪失感

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 われわれサッカーファンは、4年に一度、ワールドカップ大会の歓喜を味わうわけだが、同時に大会の終幕とともに大きな喪失感を味わう羽目になる。2002年日韓大会の時は日本代表が初のベスト16となり、共催国の韓国が3位。そのほか番狂わせがいろいろあって実に楽しかった。個人的にはロイ・キーンを欠いたアイルランド代表の健闘が印象に残った。兄に代わり弟のロビー・キーンが大活躍だった。

 2006年ドイツ大会は視聴の時差に苦しんだが、今となってはレジェンド級の南米&欧州の選手たちが燦然と輝いていた大会だった。

 当時の報道をアーカイブに残していたのでその一つを紹介しよう。現在もあるSportsnaviというサイトに掲載されたものだがニュースソースはちょっとわからない。

ワールドカップW杯ドイツ大会決勝が9日、ベルリンで行われ、PK戦の末にフランスを破ったイタリアが24年ぶり4度目となる優勝を決めた。  以下は、試合後のイタリア代表MFガットゥーゾのコメント。 「フランスのような素晴らしいチームを破って優勝したことを誇りに思う。僕らは、チャンピオンにふさわしいチームだ。僕は(チームメートに)こう言ってきたんだ。“フランスは五ツ星ホテルだ。僕たちは一ツ星ホテルかもしれない。だけど、僕たちは海を持っている。自分たちだけの海を”とね。  いろいろなことが頭をよぎるよ。1982年大会、僕は父親に肩車されて、優勝したイタリアチームを見ていたんだ。こんな素晴らしいことはないよ」 .

「僕たちは、自分の海を持っている」イタリア代表MFガットゥーゾ

 準優勝したフランスを率いたのはジネディーヌ・ジダンだったが、イタリアとの決勝戦の延長戦後半、マルコ・マテラッツィの挑発に頭突きを食らわせて、一発レッドカードとなって現役最後の試合を終えた。

 この時はワールドカップ終幕後もジダン頭突き事件の真相をめぐる論議が喧しく、おかげで喪失感をそれほど感じずに済んでいたような気がする。ジダンは結局MVPを受賞し、当時のシラク仏大統領も彼を誇りに思うとコメントした。

 報道の構図としては、早くからマテラッツィレイシスト発言が理由とされ、セリエAにおいてもマテラッツィがもともと悪役的な印象をもたれていたこともあり、加害者ジダンに同情が集まっていたと思う。だが、発言したとされる「テロリスト」という言葉自体知らなかったとマテラッツィ自身は否定しており、彼がチームにおける人種差別撤廃活動に携わっていたという話もあった。また、紳士的に思われているジダンは、これまでもしばしば突然キレてきた前歴の持ち主である。自分でもそのことを自覚し「どうしようもない」と述懐していたフィルムも紹介されていた。

私はきれいごとをいうつもりはない。ワールドカップ決勝などというサッカー選手にとっては、正念場でしかないシチュエーションでは、何が起きても不思議ではない。多分、とても些細なキッカケでこの大事が持ち上がったのだろうと愚考する。

そんなことより上のガットゥーゾの発言の詩人ぶりはどうだ。試合中にラグビーまがいのタックルはするは、得点の喜びに監督の首を絞めるわ…このマテラッツィ以上の狼藉者が語る意味不明の珠玉の言葉。“フランスは五ツ星ホテルだ。僕たちは一ツ星ホテルかもしれない。だけど、僕たちは海を持っている。自分たちだけの海を”・・・私にはこの奔放な言葉遣いに込められた深い思いをあますところなく汲み取る度量はない。素直に胸を熱くするだけだ。