『決定版 邪馬台国の全解決』(孫 栄健著)雑感
邪馬台国というのは、歴史の闇から吹き上がった言わばファンタジーにすぎない。いわゆる畿内説だの九州説だのは、歴史学的にはまったくナンセンスな論争だ。にもかかわらず、新たな遺跡発見の新聞報道などではつねに畿内説と九州説の対立みたいな扱いでげんなりする。考古学と歴史学の区別さえついていないあの手の記事は眉唾と考えた方がいい。
近年は中国史・東アジア史の流れで古代日本列島の歴史をとらえるのが主流だと思うが、本書はそこに「筆法」による中国の正史の解読という著者ならではの〝アイデア〟を加えている。著者も述べているとおり、あくまで仮説としての面白さを追求した本なので、真面目に邪馬台国の真実を追い求めている人には向かない。邪馬台国の真実など実はどこにもないということを、僕は故岡田英弘氏の著書で知った。「真実」をあきらめきれない方は岡田氏の「倭国」「日本史の誕生」などをお読みになって引導を渡されるといいと思う。