プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

4月19日のクリシェ

新装版 戦中派不戦日記 (講談社文庫)

 

人類は一つも昔から、美しくも幸福にも進歩していない。一を得れば一を失う。新しい美が生まれれば古い美が失われる。一つの幸福を得れば、もう一つの幸福が消える。美と幸福の相対量は、紀元前と同じである。

山田風太郎『戦中派不戦日記』4月19日の項)

進歩や幸福を真顔で語る人のことは信用していない。しかし戦時下を生きたこの23歳の大学生の感慨を私が体感できたのは、私の生業であるクリエイティブ業界が一気にコンピュータ化された時だった。確かに「一を得」て、「一を失」った。失ったものを惜しみはしないが、得たものの小ささに呆然としたことはある。前世紀の終わり頃のIT革命。きっと紀元前から何度も繰り返されてきたクリシェなのだろうけれど、私が宗教をジョークとしか思えない所以はそういうところにある。そして、21世紀にもなってまだまだジョークを本気で受け取る人が、世界中に蔓延しているこの世が、それもまたタチの悪いジョークとしか思えないわけである。ローマ法王とか、ダライラマとか、イスラムのなんたらとかを。人類が築き上げてきた文明とやらに乾杯。

 
 ちなみに冒頭引用の日、風太郎青年が過ごした一日は下記のようなものであった。たかだか74年前のことである。

終日暗き風。悲しげなる音を立てて吹く。午前十時より正午にかけてB29数機とP51五十機来襲投弾、機銃掃射して去る。夕刻より雨。夜を通して雨蕭々。