『ジヴェルニーの食卓』(原田マハ)を読んだ。
このところ、ずっと「重め」のフィクションを数冊併読している状況の中、気分転換に軽く読める本を求めて、積ん読の中から取りだしたのがこの1冊。マティス、ドガ、セザンヌ、モネ。4名の印象派の巨匠たちを、彼らと深く関わる女性の目を通して描く連作短編集だ。美術をモチーフとした作品を多く発表するベストセラー作家の著者だが、本作に関して「小説でアートを真正面から書くのは初めてのことで、大きなチャレンジでした」と語っている。2013年度の直木賞候補作でもある。
生来の鑑賞眼を備えた家政婦の少女と晩年のマティスが交わしたあたたかい心の交流(「うつくしい墓」)。印象派としての“戦友”である女性画家が見たドガの表現への執念とパリの街の光と影(「エトワール」)。画商タンギーの娘がセザンヌに送った借金返済要請の書簡に仮託された愛情表現(「タンギー爺さん」)。貧困から栄光までを共に過ごした後妻の娘(また息子の嫁)から見たモネの真実(「ジヴェルニーの食卓」)。……4つの物語それぞれに凝らした趣向がとても楽しく、心躍らされる。
著者の国内外でのキュレーターとしてのキャリアに裏付けられた見識と、人間心理をあたかも印象派絵画のように鮮やかに表現できる確かな文章力があいまって、フィクションとわかっていても画家たちの息づかいに深く感じ入ることしばし。巻を措く能わず、という慣用句がぴったりな1冊だ。
この作品と並行してそれぞれの巨匠の画集や同じ著者のエッセイ集『モネのあしあと 私の印象派鑑賞術 』(幻冬舎新書) を併読すると、いっそう読後感が深まるだろう。