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プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

ふと『ラストサムライ--The Last Samurai--』(2003 米国)のことを思い出してしまった。

opinion 映画

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ラストサムライ--The Last Samurai--』(2003 米国)

先日、TVニュースで映画のプロモーションのために来日したトム・クルーズが、新宿歌舞伎町で赤絨毯の上を笑顔を振りまき歩いている姿を見た。その風景が醸し出すユーモラスなぎこちなさから、ふと彼が主演した『ラストサムライ』を思い出した。ちょうど同映画でトムと共演した渡辺謙反戦コメントがネット上で話題になっていた時期でもあった。そういえば小雪が3人目の子どもを生んだというハッピーなニュースもあったな。すげえぞ、小雪

ラストサムライ』は奇妙な映画であったが、そこから現代の国際情勢に向けた警鐘を読み取ることができた。2001年同時多発テロからさほど時間がたっていない時期である。もう一度映画を見返して確かめてみたいのだが、あいにくその時間が取れない。なので記憶を掘り起こしつつ、そこらへんに関して自分が考えたことを書いてみよう。間違い等があればご免なさい。

僕は『ラストサムライ』を武士道をテーマとした映画として見ると“トンデモ”でしかないと思うし、制作・公開時期から考えると悪の枢軸への武力威圧を全面的に展開しつつあったブッシュ政権への間接的な異議申し立てのメッセージを読み取るほうが自然に思える。トム・クルーズ演じる主人公・オールグレン大尉はインディアン討伐のトラウマに苦しんでいるが、それは正義の旗のもとでの異文化殺戮の上に築かれたアメリカ合衆国の無意識の苦しみでもある。映画公開時には『ダンス・ウィズ・ウルブズ』との相似が指摘されていた。また、明治政府を代表する大村大臣が、イギリスフランスには法制度や科学技術の移入を期待しているにもかかわらず、アメリカ合衆国には武器=軍事力しか期待していないという設定からは、現代の日米安保体制に対する皮肉がほの見える。

この映画の監督(脚本も担当)はハーバード大学日本史を専攻し、ライシャワー元駐日大使に師事したこともあるという人物なので、下手な日本人より日本史・日本文化への造詣は深いだろう。映画の一見ハチャメチャな設定は、つまり製作サイドの意図であり、アメリカや西欧文明の対立軸として、極度に抽象化された日本および武士道というバーチャルな舞台装置である。

 それはそれとして登場人物のモデル探しをするのは楽しい。渡辺謙演じる勝元=西郷隆盛ではあるのだが、人物像はかなり違うように思える。勝元という名前から想起されるのは応仁の乱の東軍大将だった細川勝元だ。また彼の居住地が吉野であり、その家系が「900年続いた」という設定を考えると、後南朝あたりの故事(自天王の死)を意識しているような気もする。田楽の最中にヘンテコな忍者に急襲されたりするのは吉野と伊賀・甲賀が近いからかもしれない。また勝元の息子が信忠という名前であるのは、本能寺の変で父とともに横死した織田信忠が意識されているのではないか。敵役の大村大臣は、大村益次郎大久保利通(どちらも暗殺された)がモデルといわれているが、やたら西洋かぶれで派手好きで不正蓄財の疑いありということで、井上馨の人物像が思い浮かぶ。俳優の容貌もどことなく太った井上的だ。オールグレン大尉は榎本武揚ら旧幕軍と共に函館戦争を戦ったフランス士官が基本的なモデルだろうが、熊本で軍事教練と教育にあたったアメリカの元不良軍人・ジェーンズの名前も思い浮かぶ。また、勝元の右腕である真田広之演じる氏家は桐野利秋っぽいが、その出で立ちを見て、私は教科書に載っていたザンバラ髪で刀剣を肩に置いた足利尊氏の印象的なあの騎馬像を思い出した。多分、監督(と演じる真田さん)もアレを意識していると思う。しかし現在、あの印象的な肖像画は尊氏ではなく、その配下の実力者で、後に尊氏に討伐された高師直だという考証が優勢らしく、すでに教科書からも消えている。


前述の通り、私はこの映画のテーマが「武士道精神」だということに抵抗がある。ただ、時代に取り残された美しきものを仮に武士道とよぶのであればそれもアリかもしれないとは思う。同時多発テロでヒステリー状態に陥る一方で、そういうものに目を向けたくなるインテリ・アメリカ人の気持ちはわからないでもない。明治期にアメリカ合衆国に渡った新渡戸稲造が欧米列強のキリスト教精神に対抗するために、やむにやまれず編み出した急造の日本精神=武士道が、イスラム原理主義との対峙に悩む21世紀のアメリカ人によって自国への警鐘を仮託するものとして使われたのなら、それはそれで興味深いことでもある。いずれにせよラストサムライは死んだのだ。