プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

失われた名盤④『C-ROCK WORK』 ZELDA

 

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C-ROCK WORK

 

 1987年発表の第4作。ムーンライダース白井良明がプロデュースした前作「空色帽子の日」(1985年)は、統一感溢れるサウンド構成によるコンセプチュアル・アートとも言える傑作で本作と甲乙つけがたいわけですが、本作も元四人囃子佐久間正英氏による、ロックバンドとしてのリアリティを感じさせる骨太のサウンド・プロダクションが素晴らしい日本語ロック屈指の名作です。まさに捨て曲なしの全10曲。サウンドへのこだわりやリズムの周到さはまるでビートルズの作品を思わせます。バンドリーダーである小嶋さちほさんの弾くトリッキーで曲を躍動させるベースラインは、ピーター・フック(ジョイ・ディビジョン~ニューオーダー)あたりの影響大と見ました。当時で言うヘタウマそのもの。

 でもCDで長く廃盤状態が続いています。実にけしからん!そういえばこの「C-ROCK WORKS」を含むゼルダソニー時代の作品を5CD+1DVDでまとめたボックスセットが、予約が一定数に達すると商品化されるという話もあったが、あれはどうなったのだろうか?

 先日、夜中にLPレコードを引っ張り出してこの「C-ROCK WORK」を聴いてみました(このアルバム、どうしても夜に聞きたくなります。「空色帽子の日」が明るい日差しの中で聞きたくなるのと対照的です)。同時期のガールズバンドSHOW-YAPRINCESS PRINCESSなどのように〝懐メロ臭〟漂うこともなく、ZELDAの個性が時を越えて輝いています。もちろん自分が中高年おじさんになった今や、高橋佐代子嬢の書く歌詞だけを眺めると気恥ずかしさを感じたりもするわけですが、それがサウンドと一体になった時に押し寄せる情感の厚みには、やはり圧倒されるものがあります。メンバーは私と同世代(±2~3歳)なので、ZELDAの音からは、10代~20代に出会った(必ずしも恋愛絡みとは限らぬ)数々の同世代女子たちの香りが立ちのぼってくるようです。素直さ、純粋さ、狡猾さ、しぶとさ、あざとさ、弱さ、強さ・・・いろんなものが混ざり合った神の造形物としての彼女たちも、私と同じ50代なわけです。今でも彼女たちは女の子であるのでしょうか。それとも・・・・そんなことを考えていたら眠れなくなりました。

 私が特に好きなのは、夜の帳が降りてくるようにゆっくりしたテンポでひたひたと始まる1曲目「よるの時計は12時」、痙攣するギターリフを背景に、たゆたうメロディが無差別絨毯爆撃のように愛憎を噴出させる最終曲「浴ビル情」、そしてあその2曲にはさまれたブラックメルヘン的な「大きなのっぽの古時計」ともいえる「時計仕掛けのせつな」と、セクシュアルな暗喩をストレートなロックサウンドと文学少女的ながらも硬質なレトリックによって、爽快かつ格調高く(?)歌い放つ「Question-1」。

 

朝の眩しい光は 世界平和の訪れ

いやしいバスターミナルの 行列の利用

朝の白い光は 世界破滅の訪れ

知られざる日常の隠された一環

 

きみは問いかけられ

きみは目を伏せる

きみは問われてる

(Question-1 歌詞抜粋)

 

 ああ、聴けば聴くほど素晴らしくて、目を伏せてしまう。レコード会社は即刻、この作品をリマスターして再発すべし!