プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

小学館「P+D BOOKS」礼賛

 

夏の砦 (P+D BOOKS)

夏の砦 (P+D BOOKS)

 

以前は文庫本で代表作の多くが入手できた戦後昭和文学の作家たちの作品がいつのまにか入手困難となっている。

文庫本というのはある程度の古典は網羅するけど、戦後の作家など中途半端に古く、忘れ去られつつある作品群を絶版にしなければならない事情は十分に理解できる。著作権が切れた作品はそのうち青空文庫でも読めるようになるので、出版のモチベーションはますます低くなるに違いない。

でも、小説好きとして中高生から大学生にかけて読んだ昭和文学作品が商品として消えてしまうことは、なんか残念だな~と思う気持ちは残る。高校時代に愛読した倉橋由美子や大学の恩師の一人である辻邦生の文庫本も書店で見かけることが少なくなって寂しい。

3年ぐらい前に配本が開始された小学館の「P+D BOOKS」シリーズは、そうした作家たちの作品を「P(=ペーパーバック)」と「D(=デジタル)」の二種類の形態で提供するという面白い試みだ。

 

「P+DBOOKS(ピープラスディーブックス)」

 

ペーパーバック版は文庫版よりやや大きなB6判で、欧米のそれとと同様のチープな紙質と簡素な装丁。価格帯は税抜き450~650円と現在の文庫本よりむしろ安い。ただ、扱っている書店は限られているようだ。kindle版は200~300円台とさらに安い。

 

ペーパーバック取り扱い店舗リスト

 

現在までのラインナップでは中上健次福永武彦辻邦生遠藤周作北杜夫吉行淳之介、小川国夫など中高生から大学生にかけてむさぼり読んだ作家が網羅されているのがうれしい。丹羽文雄川端康成武田泰淳などの戦中から活躍していた大物から、新しいところだと栗本薫干刈あがたの名も。中上健次立原正秋に関しては、なんと別に電子版のみの全集も出されている。現在も月に一度のペースで毎回2~4冊の新刊が配信&配本されている。最新刊は野球がテーマの短編集『白球残映』赤瀬川隼芥川賞受賞の戦争文学『プレオー8の夜明け』古山高麗雄。なるほど時宜を得ている。

 

 小学館さん、ぜひこの企画をまだまだ続けてくださいませ!