プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

映画『遠い山並みの光』雑感

カズオ・イシグロの原作を読んだのは10数年前なので、すっかりディティールを忘れていたのですが、映画が進むにつれて記憶がみるみる蘇ってきました。まず驚いたのは原作を読みながら私が勝手に思い描いていた長崎の川沿い風景と映画で実際に見るその風景がかなり一致していたと言うこと。これはイシグロの描写力なのか、監督の再現力なのか……おそらく両方じゃないかと思いました。
原作はそれなりに密度の高い小説だけど後年の大作ような重層的な構造ではなく、分量も短めで、思わせぶりの謎を読者に見せつけながら、イシグロの若書きというか、一種の勢いで物語を進めていきます。しかし今回の映画ではそこは大衆芸術ですから、きちんと“落ち”を付けてくれて、「信頼できない語り手」問題もすっきり見通しよく、原作未読の人でも安心してストーリーテリングを楽しめるでしょう。
物語は1952年頃の長崎と1982年のイギリスを往復しながら展開されていきます。前者は広瀬すず二階堂ふみ、後者は吉田羊(広瀬すずの老後)とオーディションで選ばれた英国人俳優のカミラ・アイコが中心人物となっています。広瀬、二階堂組も好演していますが、やはり吉田、カミラ組の醸し出す緊張感と悲しみは一日の長。調べてみるとカミラは英国の名門演劇学校出身だそうでシェイクスピア劇なんかも普通に演じられる技量を持った人なんだと思います。そうした相手に英語のセリフでしっかり渡り合っていた吉田羊もすごいと思いました。
で、1952年と1982年をつなぐ役割を果たしているのが劇中曲として使われているこの曲。Joy Division として最後にレコーディングした曲を、イアン・カーティス自死後、New Orderとして再レコーディングしてデビューシングルとしてリリースされた因縁の曲です。劇中で吉田羊が長崎で産んだ長女もイアン同様に首つり自殺しているということも選曲の一因かもしれません。
以下の歌詞も映画のテーマに通じていてとにかくこの選曲には感服しました。
This is why events unnerve me
They find it all, a different story
Notice whom for wheels are turning
Turn again and turn towards this time
All she ask's the strength to hold me
Then again the same old story
Word will travel, oh so quickly
Travel first and lean towards this time


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