プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

「刑事コロンボ 24話『白鳥の歌』」を見て、「Johnny Cash / At San Quentin(1969)」を聞く

Johnny Cash / At San Quentin(1969)


先週金曜日はジョニー・キャッシュの命日。それにちなみ翌13日土曜日にNHK BSでキャッシュが犯人役を演じた「刑事コロンボ 24話『白鳥の歌』」の再放送があったので録画して、今日見た。

キャッシュは本人を彷彿とさせるカントリーのスター歌手トミー・ブラウン役。彼はマネージャーを務める妻に弱み(過去の未成年淫行)を握られている。そして仕事の収益はほとんど妻が信仰するキリスト教慈善団体に寄附されてしまい、スターであるにもかかわらず本人はつましい生活を余儀なくされている。

挙げ句の果てに妻は豪華な礼拝堂建築に彼の稼いだ金から巨額をつぎ込むことを勝手に決めてしまった。そこでついに殺意を覚えて、飛行機事故に見せかけた殺人(妻と彼女に飼い慣らされた未成年淫行の相手)を実行する。

キャッシュの演技は表情だけで感情の機微をしっかりと表現するなど、とても歌手の余技とは思えない堂々としたもの。コロンボとキャッシュ演じるトミーはいずれも朝鮮戦争に従軍した設定になっており、トミーが空軍にいたことが犯罪のカギにもなっている。キャッシュ本人も空軍に在籍していた。

劇中では犯人が歌うカントリーのスタンダード曲『I saw the light』が何度も流れる。コロンボが疑いを深める1つの要因にこの曲のスタジオ録音と最新ライブバージョンでのコーラスアレンジの違いがあった。そしてラストシーン、真っ暗な山中で証拠隠滅を図った犯人をコロンボがクルマのヘッド「ライト」で照らす…という演出がされていたのがじつに洒落ていると思った。

さらにコロンボが単身で夜の山中での犯人逮捕を図ったことに対し、トミー役のキャッシュが「人殺しと二人っきりで怖くないのかね?」と話しかける。それに対してカーラジオで流れている『I saw the light』を聞きながら、コロンボは「こんなに素晴らしい歌を歌う人がほんとうの悪人のわけないですよ。あなたは私が捕まえなくてもやがて自首したでしょ?」と返す。悲しそうに頷く犯人…人間が持つ善悪両面を併せ飲んだ数々の「白鳥の歌」を歌うキャッシュという表現者にあらためて「光」をあてるようなグッとくるエンディングだ。

さて、ジョニー・キャッシュ本人は若い頃に微罪で何度も警察のご厄介になっている。そのせいか知らないけれど、刑務所での慰問コンサートを熱心に行っており、このライブアルバムはサンクエンティン刑務所でのライブステージの記録。殺伐とした刑務所のイメージとはうらはらにすごい盛り上がりぶり。キャッシュも軽妙なMCでそれに応え、時折、放送禁止用語を発しており、レコード&CDでは「ピー」音で消されている。

CDのブックレットの写真に写っているベーシストと、刑事コロンボのドラマに出てきたトミーのバンドのベーシストはどうも同じ人物のよう。当時のキャッシュのバンドメンバーがそのままドラマに出演しているのだろう。ちなみにこの刑務所ライブではギタリストとしてカール・パーキンスも参加しており、ジョン・レノンらが憧れたカッコいいロカビリーギターを聞かせてくれる。

キャッシュのカントリーに留まらない懐の深い音楽性はカントリーが大嫌いなフランク・ザッパにも愛され、ザッパはキャッシュの「Ring of Fire」をカバーした。ちなみに私がキャッシュの魅力を“発見”したのはエリック・バードン&アニマルズの同曲のカバーによってだった。
ボブ・ディランとはお互いに影響を与え合っており、この刑務所ライブではキャッシュがボブ・ディラン作の「Wanted Man」を歌っている。亡くなる数年前にはナイン・インチ・ネイルズの『Hurt 』の素晴らしいカバーも披露していた。

ちなみに現実のジョニー・キャッシュは、音楽的パートナーでもある(このライブでもデュエットを聞かせる)2番目の妻ジューン・カーターを深く愛しており、ジューンが病死した4か月後に後を追うように亡くなった。もともと糖尿病を病んでいたが、傷心のあまりの死と言われている。