プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

『昭和史Ⅰ・Ⅱ』中村隆英を読む。

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令和も3年目、昭和はすっかり過去の〝歴史〟として語られる時代となった。平成の「昭和史」ブームの火付けとなったのがこの中村隆英『昭和史』。1993年初版。大佛次郎賞を受賞したベストセラーで、先頃亡くなった半藤一利氏の「昭和史」もその影響下にあると思われる。

 

著者は経済統計学者でもあり、その経歴から無味乾燥な歴史書と思われるかもしれないが、あにはからんや歴史のダイナミズムを感じさせるさまざまな叙述の工夫に唸らされる。

たとえば二・二六事件の経緯を紹介しながら、事件直後につくられた中村草田男「降る雪や明治は遠くなりにけり」の一句を紹介し、「ひとはこの句をたんに叙情と感慨のみと解しがちだが、作者はこのクーデターに対する憤りを一七字にさりげなく秘めていたのではないだろうか。明治以来の安定が、このとき完全に失われたからである」と書く。思わずはっとさせられた。

 

昭和にとっての2世代前が明治だとしたら、令和における遠くなりにける時代は昭和である。ノスタルジーによる賛美か、罵倒か、極端に評価されがちなこの時代を、昭和生まれとして虚心坦懐に受け止めるためにも本書は良き指南役となってくれる。

 

昭和史 文庫 (上)(下)セット

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 ※今は文庫で読めるはず