利休忌に「へうげもの」を読み返そうかと考える。
今日は利休忌で、その弟子であった「(古田)織部の日」でもあるという。
慶長4(1599)年の今日、千利休を継いで豊臣秀吉の茶頭となった古田織部が、亡き師を想って自分で焼いた茶器を用いて茶会を催した。織部焼の始まりである。
その師弟二人が重要人物として登場するマンガ「へうげもの」は2005年から2017年までの約12年間にわたり週刊「モーニング」に連載された“戦国大河絵巻”だ。主人公は古田織部で、利休は前半部の最重要人物として主人公に多大な影響を与え続ける。
歴史フィクションは、最低限の史実の上でどれだけオリジナリティのある遊びを披露できるかが勝負なのだが、その点では極上の作品となった。平成を代表するマンガの一つだろう。
章タイトルは洋楽や歌謡曲などのパロディで、作品中にも「ナボナの王選手」などさまざまなTVコマーシャルのパロディがストーリーの流れの中に挟み込まれていく。戦国武将たちの顔やキャラクターも現代の有名人を参照にしており、加藤清正が具志堅用高になぞらえられていることには大笑いだし、細川幽斎が子孫である「細川護煕」の顔なのも唸った。利休の茶友である高山右近、細川忠興、蒲生氏郷、織田有楽斉らのキャラクターも楽しい。そして同僚であり、やがて上司であり、時に仇敵であり、実は心の友である木下藤吉郎=豊臣秀吉は、常に物語に緊張感を与え続ける存在である。
このマンガの序盤最大の事件である本能寺の変は、フィクションで描かれた本能寺の変史上最も途轍もないものと断言できる!ここに描かれた信長の最期には驚いたし、笑ったし、そして泣いた。もちろん今年の大河ドラマの主人公である明智光秀も前半のストーリーで大きな役割を果たす。おそらく徳川家康の江戸幕府設立は光秀の太平への思いを成就させるための営為だったと作者は考えているのだろう。家康の転機となる光秀の死の直前に、ずっと後年の江戸期に芭蕉が詠んだはずの「月さびよ明智が妻の話せむ」の一句が登場するのが実にミラクルな展開であった。
そして中盤のハイライトであった利休の切腹の凄まじさ。漫画史上に燦然と屹立する名シーンだ。
史実通り、この作品でも織部は徳川幕府から切腹を命ぜられるのだが、父家康に従いながらも織部と師弟の交情を交わす徳川秀忠が後半のストーリーに微妙な陰影をもたらした。
さあ、全25巻、どこから読み返そうか。やはり最初からか。