プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

『はじまりのゼルダ 最初期音源集 1980-1982』雑感

はじまりのゼルダ 最初期音源集1980-1982

はじまりのゼルダ 最初期音源集1980-1982



なぜか突然発売されたゼルダ草創期の貴重な音源集。

 

 僕がもっとも好きなゼルダは、ギターのフキエさんとドラムのアコさん加入後の3枚『カルナヴァル』『空色帽子の日』そして個人的には最高傑作の『C‐ROCK WORK』。

 

なのでこの「最初期」と銘打たれたコンピレーション発売に大きく心動かされはしたが、購入するかどうかはすこし考えた。読みたい本や見たい映画もあるし、釣りにも行きたい。2枚組CDをじっくり聞く時間もなかなか取れるものではない

 

 と思っていたら、この改元のタイミング。多少仕事はやらねばならないが、逆算しても時間の余裕はわりとありそうだ。ならばとポチって翌日にCDが届く。買って良かった。

 CD1はバンドの胎動期の生々しい記録。CD2は「暗黒ZELDA」「野生のZELDA」として羽化する瞬間の記録だ。ライブ音源は概ねまあまあ音のよいブートレッグ並みではあるが、それがどうした。ビートルズの初期音源と同様、団子状になった音の塊が聞き手の脳髄を直撃する。モモヨ、白井良明佐久間正英といった名うてのミュージシャンたちが彼女たちのプロデュースを買って出たのもむべなるかな。

 

 後年の「C‐ROCK WORK」収録曲「Question-1」の初期バージョン「問1」には瞠目した。「Question-1」の特徴的なベースラインはまだ聞かれない。ひたすらルートで押しまくる。その不器用に突進するパワーが愛おしい。そうかと思えば、後に『空色帽子の日』に収録される「ハベラス」はもうこの時期にほぼアレンジが完成していて驚く。

 

 プロデュースはヴォーカルのサヨコちゃん(とエンジニア)で、ライナーには彼女とリーダー&ベーシストのチホさんが文章を寄せている。チホさんの文章はごく短く顔文字入りなので、きっとスマホかなんかで作成したものじゃないかな。その短い文中に「1981年1月11日の屋根裏LIVE音源がヤバイ。。。初期ゼルダのピークかも」とあり、実際その5曲を聞いてみると確かにヤバイ。ぶっ飛んだ。当時のフリクションスターリンといったパンク系バンドに比肩する鋭さを持つ演奏を聴かせている。ああ、生で体験するべきだった。

 

 ゼルダはほぼ自分と同世代のバンドで、彼女たちがこういう音楽をやっている気持ちというのが本当によくわかる。夢中になっていた音楽、当時の東京のロックシーン、サブカルチャーシーンから受けたインパクトなど……80年代半ばに自分でも同傾向のニューウェーブ系バンドに参加していた経験があるので、バブルに向かう社会の混沌の中で自分達のピュアネスを表現しようとする彼女たちのもがき方に(今となっては気恥ずかしい)共感を覚える。また上の世代と異なり、一つのジャンルに拘泥しない雑食性としなやかさ(あるいはいい加減さ)にも親近感を覚えていた。

 

 ゼルダを聞くと音楽的な感興だけでなく、こうした若き日々のよしなしごとが脳内に沸き立ってくる。自分の音楽的原点は加山雄三ベンチャーズビートルズあたりだが、ゼルダに関してはまるで新入社員時代の同期みたいな気持ちで接しているのだ。この最初期音源集『はじまりのゼルダ』を聞いてあらためてその思いを強くした。