プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

お正月に江戸川乱歩の異色作『十字路」を読んだ。

 

十字路 (江戸川乱歩文庫)

十字路 (江戸川乱歩文庫)

 

戦後になって、少年探偵団シリーズばかり書いていた乱歩が模索して書いていた大人向け作品に『化人幻戯』『影男』(明智小五郎の最終作)などがあるが、この『十字路』も同時期の作品。僕は江戸川乱歩全集を中高生時代に読破したので、この作品も当然読んでいるのだが、記憶はほとんどない。

 

で、読んでみた。

戦前の乱歩作品にあったケレン味はほとんど感じられず、テンポの良いサスペンスドラマがスピーディーに展開されていく読み味は、悪くはないけど物足りない。実はこの作品、純粋の乱歩オリジナルではなく、渡辺剣次という人が筋書きやトリックを考えたラフな第一稿をもとに、乱歩が書き直すという形式で完成させたらしい。

いわゆる倒叙形式の作品で、犯人が犯罪を成し遂げ、その後追い詰められていくサスペンスは、さすが乱歩先生、なかなか上手く描かれている。「もうひとつの死体の出現」「死体の隠し場所」のトリックも面白い。ただ、かなり偶然とご都合主義が大きなポイントになってしまっているのが気になる。かといって乱歩らしい不合理な謎があるわけでもない。まるで現代のテレビの2時間サスペンスドラマのようで、映像化したら面白いかもと思った。実際、渡辺剣次の脚本で『死の十字路』として映画化されているようだ。主演は三国連太郎新珠三千代。さらに1980年には天知茂岡田奈々によるテレビドラマ化もされている。ほんと、そういう作品です。乱歩作品をほとんど読んだ人が最後に読むのがいいのかもしれません。