プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

ほんとうに「クイーンは日本の少女たちが発見した」のか? 

f:id:indoorffm:20181121171155j:plain

大島弓子『ほうせんか・ぱん』(1974年)より

 

 世間ではクイーンの伝記映画が盛り上がっていて、その語られる文脈の中で「クイーンは日本の少女たちが発見した」というものがある。ほんとうだろうか? 確かにデビューアルバムは本国で不評だったようだが、セカンドアルバム前に発売した「輝ける7つの海(Seven Seas of Rhye)」は全英チャート上位とヒットした。次のシングル「キラー・クイーン(Killer Queen)」は米国でもヒットしており、日本でクイーン人気が高まってきたのは、私の体感的にはその前後の時期だ。故に日本女の子たちの盛り上がりがなくても、彼らは早晩世界的なロックミュージシャンにのし上がっただろう。クイーンの成功のために日本女子が果たした役割というのはイマイチよくわからないが、初来日の大成功で彼らが自信を付けたというのはあるかもしれない。


 ほんとうに日本の女の子の力が世界に押し上げたロックバンドといえば何といっても今も現役バリバリのチープ・トリックである。先頃の来日公演も素晴らしかったようで、彼らの出世作が「武道館ライブ」であることと併せて下積みのライブバンドを発見した日本女子の眼力は誇って良いだろう(デヴィッド・シルビアンのジャパンもビッグ・イン・ジャパン的な立ち位置だったが、「世界的」になる前にバンドは瓦解した)。


 「クイーンは日本の少女たちが発見した」への違和感は、先頃西城秀樹が亡くなった際に「ヒデキが歌謡曲とロックの垣根を初めて越えた」という言説に感じた違和感に似ている。ヒデキの前史としてロカビリーがあり、グループサウンズがあった。それを全部すっ飛ばしてどうするの?である。

  70年代の日本女子のロック趣味を牽引していたのは『ミュージックライフ』誌の女性編集者たちだが、少女漫画家の先生方の存在も無視できないだろう。まず青池保子の「エロイカより愛をこめて」「イブの息子たち」などが思い浮かぶが、それ以前から一条ゆかりや大矢ちきなども作品中で自らのロック趣味をしきりに開陳し、あの山岸涼子くらもちふさこだってストーリーにロックバンドを取り入れていた。

 クイーン人気の前史といえばもちろん70年代前半のグラムロックである。デビューは遅いがクイーンのメンバーはデヴィッド・ボウイらと同世代だ。そのボウイをたびたび作品のモチーフにしていたのが、偉大なる大島弓子先生。デヴィッド・ボウイは「レッツ・ダンス」以前はそれなりの大物ではあったが、いわゆるカルトヒーロー的な存在だった。そんなカルトヒーローを愛するマンガ家からインスパイアされた日本女子は世界でも早い時期にクイーンの魅力を発見できた。それはグラムロックブームと重なり合った少女漫画家たちのロック啓蒙運動の成果の一つと私は考えている。その中心にいたのがボウイであり、マーク・ボランである。日本の少女文化にこの二人が与えた影響はとてつもなく大きい。だって当時はもちろん、現在も少女マンガ・アニメの美青年・美少年キャラといえば、グラム・ロック期のボウイやボランの影響下から脱しきれていないではないか。

《参考》

日本の少女漫画の美少年は何故みんなボウイに似ているのか?|音楽情報サイトrockinon.com(ロッキング・オン ドットコム)

 
 では最後に、冒頭にも一つ掲げたが、大島弓子大先生の作品に見られる微笑ましいボウイ・オマージュの具体例をいくつか見てみよう。

f:id:indoorffm:20181121171315j:plain

ミモザ館でつかまえて』(1973年)より。登場人物が熱唱する英語の歌詞はボウイの「君の意思のままに(Hang On To Yourself)」だ。

 

f:id:indoorffm:20181121171733j:plain

F式蘭丸』(1975年)より。バイセクシャル美少年の象徴としてボウイの名が。

 

f:id:indoorffm:20181121172245j:plain

バナナブレッドのプディング」(1977年)より。この台詞は「ロックンロールの自殺者(Rock n Roll Suicide )」の冒頭の歌詞そのまま。ボウイファンなら思わずニヤリである。

 

f:id:indoorffm:20181121174159j:plain

ヒー・ヒズ・ヒム(1978年)より。英国の歌手〝ピーター・ピンクコートさまのお姿。ストーリーもジギー時代のボウイの苦難を思わせる。

 

 

四月怪談 (白泉社文庫)

四月怪談 (白泉社文庫)

 

 

バナナブレッドのプディング (白泉社文庫)

バナナブレッドのプディング (白泉社文庫)

 

 

F式蘭丸 (サンコミックス 416)

F式蘭丸 (サンコミックス 416)

 

 

ミモザ館でつかまえて (サンコミックス)
 

 

ほうせんか・ぱん (白泉社文庫)

ほうせんか・ぱん (白泉社文庫)