プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会3』を読んだよ。

 

 

黒後家蜘蛛の会3【新版】 (創元推理文庫)

黒後家蜘蛛の会3【新版】 (創元推理文庫)

 

 

SF作家であるアイザック・アシモフによる本格ミステリ連作短編の3巻目。特許弁護士、画家、数学者、暗号専門家など多士済々の秘密クラブ「黒後家蜘蛛の会」で繰り広げられる推理ゲームという設定で書かれた連作短編シリーズという体裁で、設定を含めて極めて作為的である。メタ本格推理といってもいいだろう。

昔からその存在は知っていたけど、なんとなく読まずにおいたのだが、参加している書評サイトで献本ということで新装版の第3巻をいただいたので読んでみた。早く読んでおけば良かった。

黒後家蜘蛛の会」のメンバーは職業も興味もキャラクターもバラバラで、親睦の集まりのわりに互いに嫌みや当てつけを言い合ったりしている。推理のネタを持ち込むのは、メンバーの一人が毎回招待するゲストで、それも殺人事件やら凶悪犯罪というわけではなく、ミステリアスではあるが日常の疑問に過ぎないものである。しかし「事件」の種類がなかなかバリエーション豊富で飽きることなく読み継げる。この3巻には宇宙科学に関する「謎」も含まれており、アシモフの本領発揮である

 ゲストの提示した謎を聞くやメンバー各人が推理を披露するが、謎を解いてしまうのは最後まで黙っているクラブの給仕ヘンリー。つまりこの寡黙なヘンリーがホームズで、自己主張が強い「黒後家蜘蛛の会」の錚々たるメンバーたちがワトソンなのだ。

 物語は単なる決して謎解きに終始しているわけではなく、各自の推理は時事ネタや社会批評、人間観察に及び、一話が短い割に懐が深い読み味だ。話の末尾に作者アシモフによる注釈のような文章が付されており、そこでヘンリーの推理以外にも「答」があることも示唆され、楽しみながらこのシリーズを書いている作者の余裕がうかがわれる。

 

さっそく他の巻も読んでみよう。付け加えると長さといい、読み味といい、電車など細切れの短い移動時間で読むのにうってつけの作品集だ。