プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

ウルトラセブンと玉川学園

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先日仕事で玉川学園を訪れた。創立者自ら鍬を持って山と雑木林を切りひらいたというキャンパスは、最近では話題のテレビドラマ「やすらぎの郷」のロケ地にも使われており、多彩でユニークな造作の校舎と生い茂る雑木林の豊かな緑でちょっと散歩するのも楽しい。スズメバチマムシ注意の看板もある。

キャンパスの真ん中辺りに大学工学部の校舎があって、その玄関の所に印象的な碑文が掲げられている。いわく「神なき知育は 智恵ある悪魔をつくることなり」創立者小原國芳の揮毫だという。

 

小原は周囲にこの言葉がガリレオ・ガリレイが発した言葉と言いふらしていたらしいが、それは彼一流のジョークだったようだ。実際はナポレオンと闘った英国の将軍ウェリントンの「宗教なき教育はただ悧巧なる悪魔をつくるなり」を小原なりに翻案した言葉だという。一連のオウム事件が起こった頃、僕は仕事のため頻繁に玉川学園のキャンパスを訪れていて、この碑文を見ながら思わず溜息をついていたことを覚えている。

 

碑文が設置されたのは1966年らしいが、その2年後に特撮テレビドラマ『ウルトラセブン』第18話「空間X脱出」で、ウルトラ警備隊隊長のキリヤマがこんな台詞を言っている。「(隊員たちに向かって)こんな言葉を知っているか?神なき知育は、知恵ある悪魔をつくることなり…。どんな優れた科学力を持っていても、奴(ベル星人)は悪魔でしかないんだ!

この回の脚本家は金城哲夫。沖縄出身だが上京して玉川学園高等部〜玉川大学文学部で学んだ。彼の脚本による『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の回には名作が多く、そのプロットにはしばしば沖縄戦の影が見え隠れする。この回は学生時代に馴染んだ恩師の言葉を、一種の徒心だろうか、隊長のセリフとして試してみたわけだ。

金城はその後、円谷プロを去り、故郷・沖縄に戻るが、若くして不可解な事故で死んだ。享年三十七。同じ沖縄出身でウルトラシリーズの脚本家だった上原正三による伝記『金城哲夫 ウルトラマン島唄』は、その生き急いだ生涯を同郷の友としての視点から熱く描いている。また昨年、「ウルトラシリーズ」放送開始50年を記念して、彼の名を冠した脚本賞円谷プロダクションクリエイティブアワード 金城哲夫賞」が創設された。彼の人生は昭和という時代の光と影でもある。

金城哲夫 ウルトラマン島唄

 

一方「最後の私塾創立者」と呼ばれた玉川学園創立者の小原國芳は、教え子の金城より長く生きた。満90歳で亡くなる直前まで、車いすで児童・生徒・学生の前に現れ、講話・講義を行っていたという。彼の自伝 『教育一路』はとても面白い本だ。福沢諭吉の『福翁自伝』もそうだが、私学経営者というものは教育への情熱とともに、時代と切り結ぶ山師的なセンスも必要なのだとつくづく思わせられる。現在、私学の問題で政局が揺れているが、そうした山師の存在を許さない世知辛い世の中が果たしていいものかどうか…。水清くして魚棲まず。