April Come She Will 〜今月の読書録〜
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なんだかんだ言って本読んでるな。でも、積ん読も多いんですよ。仕事で読んだ本を除いて、今月読み終わった本をざっと紹介してみる。
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聲の形(講談社/全7巻)
大今良時
アニメ映画化もされた話題作。設定からは「障害者差別」「いじめ」というタームが思い浮かぶが、気持ちを伝えあうことの困難さが作品の大きなテーマであろう。誰しも子どもの頃、気になる相手に自分の気持ちを伝えきれなかった悔恨というものから自由になれずに大人になると思うが、その悔恨を極大化するための設定が聾唖のヒロインということだろう。などと冷静を装う私であるが7巻読み終わるまでに何回も胸をかきむしりたい誘惑に駆られた。悔恨は「子どもの頃」に限ったことではないし……。作者が可能性だけを示し、すっと手を引くようなエンディングもとても良いと思う。定評通りの名品。
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聲の形 公式ファンブック (KCデラックス 週刊少年マガジン)
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大今良時
前述の『聲の形』はもともと新人マンガ賞受賞作で、聾唖を取り上げた内容からか当初は雑誌掲載を見送られたが、その後、別冊マガジンに掲載。さらに連載前に改作した読み切り版が週刊少年マガジンに掲載された。このファンブックには連載ストーリーのプロローグとなるその二つの読み切り版が掲載されている。さらに20時間以上に及んだという作者インタビューがすごい。作品のディティールや裏設定を実にあっけらかんと語っていて驚く。作者がすでに世に出した作品についてここまで語ることには賛否はあるだろうが、この『聲の形』というあまりにも失語的で、余白の多い物語には許されるんではないかと個人的に思う。 ちなみにこれらの貴重な証言を引き出したインタビュアーは知り合いの凄腕ルアー師さんなのです。素晴らしい!
織田信長の家臣団―派閥と人間関係 (中公新書)
和田 裕弘
織田信長本人も先祖をたどればかなり怪しい出自であるが、家来たちはそれに輪をかけて得たいのしれない人物どもであった。身元不詳の馬の骨としか言えないような羽柴秀吉、滝川一益、明智光秀などはもちろん、古参の家老であった柴田勝家ですらその家系ははっきりしない。本書はその信長の武将たちがどのように家臣団を組織し、力を発揮したか(あるいは発揮出来なかったか)を、最新の知見を駆使して詳述した本。信長及びその家臣団の研究については谷口 克広氏という先達がいるが、本書はその成果を踏まえつつも、より踏み込んだ考えを披露しており、佐久間信盛や滝川一益の軍団編成では初めて知ることが多かった。また柴田勝家軍は内部抗争が絶えず、本能寺の変後に秀吉に後れを取った一因となったのでは…という見方はなるほどと思った。著者の和田氏はわたくしと同世代(1962年生まれ)。なんと本業はサラリーマンのアマチュア歴史研究家なのだとか。
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海街diary 8 恋と巡礼 (フラワーコミックス)
吉田 秋生
※下記参照http://indoorffm.hatenadiary.jp
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ヒストリエ(10) (アフタヌーンコミックス)
岩明均
「カイロネイアの戦い」始まる! いきなりアレキサンドルの本性が全開。そしてどこまでも女運がない主人公エウメネス。フィリッポスに嫁ぐエウリュディケの悲哀。それぞれの人物の末路を知っていると、もう胸かきむしられる展開なのである。岩明先生は、わかりにくいが、奥の深い感動を描く第一人者だ。
(ゲッサン少年サンデーコミックス)
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石井あゆみ
5巻ぐらいまでの怒濤の面白さが薄れてしまった巻があるが、本巻では羽柴兄弟の暗躍から、物語のエンディングに向けた大きな転換が描かれている。史実通りなら信長の寿命はあと3年あまり….。なお、テレビ化・映画化作品はとんでもなくつまらない劣化コピーなので見ない方がいいだろう。
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とめられなかった戦争 (文春文庫)
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それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫)
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加藤陽子
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同じ著者の近接するテーマの2冊。前者はNHK教育テレビ「さかのぼり日本史」の放送内容の増補版、後者は栄光学園の中高生向けに行った集中講義をまとめたもの。どちらもとてもわかりやすいが、突きつけてくるものは重い。後者では著書は、生徒たちに自分が参謀だったり、満州移民だったら何を考えるかと「戦争を生きる」ことを求めている。歴史を学ぶとはどういうことかを問いかけてくる一冊。ただの戦争反対の連呼では戦争を止めることはできない。
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オリエント急行殺人事件 (古典新訳文庫)
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アガサ・クリスティー /安原 和見 (訳)
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この作品を初めて読んだときの衝撃は忘れられない。いや衝撃ではなかった。驚愕と感動が入り交じった何とも言えない複雑かつ昂揚した感情だった。まだ中学生だったのでその気分を言葉にする術を知らず、「探偵小説としてルール違反だよな」と悪態をついた。それから40年経つ。何度もこの作品を読み返した。推理小説でこれだけ再読した作品はない。今回新訳が出たので、また読んでみた。ラストでぶわっと来た。こんな話しでいいのか! 犯罪を肯定しているじゃないか!? でも、これしかないよな。ポアロは2つの解を示した。選ぶのは読み手だ。そして毎回、クリスティの手にまんまと乗ってしまうのだ。やっぱり素晴らしい。これが小説だ。でも新訳の意味はいまいち感じなかった。
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国のない男 (中公文庫)
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カート・ヴォネガット /金原 瑞人 (訳)
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若き日の村上春樹センセイもインスパイアされたというアメリカの現代SF作家による遺作エッセイ集。はぐらかすようなユーモア感覚の向こうに透徹した厳しい視線が未来を見ている。書かれたのはブッシュ政権下であるが、まるでイタコの口寄せでヴォネガットが語っているような、現代に蘇る恐ろしい預言書になっている。もう何も言うことはない。ただ読むのみだ。
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以上が読了本だが、本日、仕事で出かけた六本木の青山ブックセンターで『夫のちんぽが入らない』 (SPA!BOOKS)を買ってきた。家族に見つからないようGWにこそり読むつもり。