プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

『松本清張ジャンル別作品集(1) 武将列伝』を読む。戦国から平和な時代へ。変革期を生きた武将たちの栄光と零落

松本清張ジャンル別作品集(1) 武将列伝 (双葉文庫)

松本清張ジャンル別作品集(1) 武将列伝 (双葉文庫)

先日、三谷幸喜監督「清洲会議」をテレビ放映していて、放映前の番宣で三谷監督自身が「丹羽長秀がこれだけクローズアップされた映画は他にありません!」と言っていて、確かにそうだなと思った。しかし、丹羽長秀を主人公にした短編小説があったはずと調べてみて、松本清張「腹中の虫」に突き当たった。この作品は長秀がもともとは目下の者であった木下藤吉郎羽柴秀吉に圧倒されていく様を書いた作品でおそらく「腹中の虫」というタイトルはそうした秀吉の不穏な存在感(獅子身中の虫)と、彼の死因となった寄生虫病を掛けている。

本書はその「腹中の虫」のほか、毛利元就、伊東祐義、足利義昭最上義光柳生宗厳・宗矩父子ら、安土桃山〜江戸初期の変革期を生きた武将たちを主人公とした短編アンソロジー。「腹中の虫」を含めて既読の作品も興味深く読み返すことができた。特に印象的に残った作品は「三位入道」。島津と大友という大大名に挟まれながらも九州の雄として名を馳せた伊東祐義の零落を、史実をベースにしながらも、清張らしく人生の裏表を伶俐に描いて余すところがない。他の作品も史実とフィクションの狭間に独自の人間観でリアリティを吹き込む手腕は流石である。