プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

NETFLIXのオリジナルドキュメンタリー『リマスター:ロバート・ジョンソン』雑感。あるいは私の「27クラブ」

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 NETFLIXのオリジナルドキュメンタリー『リマスター:ロバート・ジョンソン』を見た。

 ジョンソンに関してはかなり研究も進み、私も伝記やドキュメンタリーに接しているのでこの番組にはそれほど目新しい情報はなかったが、最新の研究成果を一般向けにうまくまとめてあって感心した。NETFLIXのプログラム制作能力はもはや日本のテレビ局など及びも付かないレベルに達している。

 

 番組中で多くの人がロバート・ジョンソンの人と音楽を語っているが、その中でも孫であるスティーブン・ジョンソンの姿が印象的だった。スリムなロバートと違って、スティーブンは力士のような巨漢である。彼が歌う「クロスロード・ブルース」は祖父のようなエキセントリックな味わいはないが、迫力満点である。もう一人、ロバートと「7カ月付き合った」という老婆がワンシーンだけ登場したのは驚いた。

 

 ロバート・ジョンソンと言えば、やはりブルースギターの神髄とテクニックを手に入れるため、十字路で悪魔に魂を売り渡したという伝説が有名だ。最初、ロバートはギターが下手くそなブルース歌手だったが、1年間姿をくらました後、神業としか思えないギターテクニックを身につけて再び姿を現した。このドキュメンタリーでは、その1年の空白の間、故郷に戻って土地のギター名人に師事してギターテクニックを身につけていたという説を紹介する。ただし、その練習場所が異様だ。真夜中の墓地だという。ロバートと師匠はお互いに墓石に腰掛け、向かい合ってギターを演奏した。なぜ深夜の墓場なのか? 霊がホンモノのブルースを教えてくれるからだ、と師匠はロバートに言った。

 

 そして皆の前に再び姿を現した彼は、誰の追随も許さない卓越したブルースマンとなっていた。私としてはコチラの話の方が、十字路の悪魔の話より面白いと思う。

 それにしてもロバート・ジョンソンのエピソードにはつねに不吉な影が覆い被さっている。その不吉の影は彼の影響下にある後世のロックミュージシャンたちにも及ぶ。

 27歳でジョンソンが毒殺されてから約30年が過ぎた頃、ブライアン・ジョーンズジミ・ヘンドリックスジャニス・ジョプリンジム・モリスンらのロックスターたちが相次いで27歳で死亡した。その後もピート・ハム(ex バッドフィンガー)、ゲイリー・セイン(ユーライア・ヒープ)、ピート・デ・フレイタス(エコー&バニーメン)らが27歳で死んでおり、さらに1989年=平成元年、ニルヴァーナカート・コバーンが死亡するとこの偶然の一致は「27クラブ(The 27 Club)」という言葉を生み出した。

 医学的な調査も行われた。2011年にブリティッシュ・メディカル・ジャーナルは、27歳の時点でミュージシャンの死亡リスクが有意に高まるわけではないという調査結果を発表した。ちなみのその年にはエイミー・ワインハウスが27歳で死んでいる。これはもう十字路(もしくは墓場)の呪いとしか言えないだろう。

 私の27歳といえば、初めて転職した年齢であり、初めての改元を迎えた年でもあった。もう仕事を辞めようと思って迎えた新しい年の1月7日、徹夜で遊んで、ドライブして朝方に帰宅すると昭和天皇が死んでいた。オレと関係なく時代が変わっていくのかもしれないと思った。でもそれより自分自身と自分自身を取り巻く状況を変えることが先決だった。それが私なりの「27クラブ」だと。あそこで自分は時代を乗り越えるために一度「死んだ」のかもしれない、と今振り返って思う。

 その平成もまもなく終わる。しかし、今度は何も変えるつもりはない。じたばたしてもしょうがない。ほっとけば自然と衰え、死に向かう年齢になっているんだから。

 

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