プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

『書店主フィクリーのものがたり』(ハヤカワepi文庫/ガブリエル ゼヴィン)を読んだよ。

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)

書店主フィクリーのものがたり (ハヤカワepi文庫)

 

ハヤカワepi文庫にハズレなし! 本好きにとって最高の小説だ。翻訳もいい。
文庫本裏カバーの梗概は以下の通り。

《島に一軒だけある小さな書店。偏屈な店主フィクリーは妻を亡くして以来、ずっとひとりで店を営んでいた。ある夜、所蔵していた稀覯本が盗まれてしまい、フィクリーは打ちひしがれる。傷心の日々を過ごすなか、彼は書店にちいさな子どもが捨てられているのを発見する。自分もこの子もひとりぼっち――フィクリーはその子を、ひとりで育てる決意をする。》

各章を、著名な短編小説のタイトルと主人公フィクリーの作品に対するコメント付した「扉」として始める構成も楽しい。フィクリーと出版社の女性営業とのラブロマンス、死んだ元妻の姉とその夫の不穏な関係、フィクリーによって本好きになる気の良い警察署長ランビアーズとの関係、養女マヤに芽生える小説家としての才能…...一見ほのぼのとしながらも、一貫して不穏な死をめぐる葛藤と悔恨で通底するストーリーテリングは見事だ。最後のハッピーエンドの納め方も悪くない。

主人公はインド系アメリカ人、棄てられていた養女はアフリカ系(と白人のハーフ)。そして作者がロシア系ユダヤ人と韓国系の父母を持つことを念頭に読み直すと、あるいは作品の世界観がより深まるかもしれない。