プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

『サカナとヤクザ』(鈴木智彦・小学館)雑感

 

 

 

話題の一冊『サカナとヤクザ』(鈴木智彦・小学館)を仕事の合間に読み進めた。
東北、築地市場、北海道、千葉、そして九州・台湾・香港ルートなど、漁業の裏側への体当たり潜入ルポだ。

作者が北海道出身のせいか、北海道に2章に分けて全体の半分弱のページ数が割かれており、特に後編のレポ船の話は読み応えがあった。レポ船というのはソ連時代にソ連海域での漁を黙認してもらう代わりに日本の情報をソ連に渡すスパイ船のことだ。話には聴いていたが実際にレポ船に乗り組んでいる人たちの証言を交えてのリアルな話には圧倒される。

戦後の銚子港のヤクザ支配、そして共産党暴力団の暗闘も興味深かった。通称「高寅」という銚子を牛耳るヤクザの元締めは昭和20年代に警察の手に落ちるが、ヤクザ支配の気風はその後も残り、銚子の歓楽街で生まれ育った昭和38年生まれのジャズミュージシャン菊地成孔の証言も出てくる。

最終章のウナギをめぐる話もえぐいえぐい。九州・台湾・香港と文字通り命がけのルポルタージュと言えよう。これを読むとおちょぼ口で高級店のウナギを食す老若男女が心底バカに思えてくる。

実に興味深い本だが、読みやすくはない。文章が荒っぽい。言いたいことの気持ちだけが先行して、往々にして前後関係や主述関係が混乱を来している。読みながらもう少し叙述法を練り上げたほうがいいと思ったことが何度もあった。が、内容の凄まじさと勢いに押されて読み進めることはできる。奇書と言えよう。