プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

『サイコパス』中野信子(文春新書)雑感

サイコパス (文春新書)

サイコパス (文春新書)

 

先日、友人とサイコパスに関する雑談を交わし、そういえばサイコパスってわかるようでよくわからないよな….と言う思いにかられ、一昨年ベストセラーとなった本書を手に取った。一読、サイコパスについて現在わかっていることが実にわかりやすくまとめられていると感じた。美貌の持ち主である著者はメディアにも良く登場してタレント的なイメージもあるが、著書を読む限り学者として良い意味で視野が広く、とても有能な方のように思える

 サイコパスというと詐欺や凶悪犯罪に結びつけて語られやすいが、「ハイリスク・ハイリターン」を好むその性向から、実は成功した企業経営者や弁護士、医師など社会的ステイタスが高い人々にも多く見られる。

本書はまず一般読者が入りやすいサイコパス心理的、身体的特徴(情動の欠落)を米国などの実例を交えて解説してから、著者の専門分野である最新の脳科学の知見(前頭葉の活性化や大脳皮質とのつながり)、サイコパスの歴史的検証(サイコパスは現代的な現象ではない)、進化論的な位置づけ(人類の進化に重要な役割を果たすサイコパス)、現代社会におけるサイコパスの現れ方(ママカーストのボス、ブラック経営者、炎上ブロガー、サークルクラッシャー等)、そして最後にサイコパスかどうかの自己診断法が解説される。

実をいえば、長年私は自分が少なからずサイコパス的な性向があると考えていたのだが、本書でいくつか紹介されている自己診断法を試してみるとまったくそうではなかった。情動にめっぽう弱い凡人。それが私の実像らしい。まあ、喜ぶべきなのだろう。


サイコパスは情動より合理性を重んじる。情動に左右されないからか、人の表情から弱点を見抜くのが天才的に上手で、最初は仲間として親切にふるまい、信用させ、その後に些細なことを激しく咎めて相手を屈服させる。アメとムチを巧みに利用して相手を精神的に支配し、金銭や名誉など自らの欲望を合理性に則って満足させる。それがサイコパスの生き方なのだ。

 

こうしてまとめると、いま話題の日大アメフト部・内田正人前監督を想起するが、死者まで出したSTAP騒動の小保方晴子文科省天下り斡旋とその隠蔽工作を主導した前川喜平前事務次官も同様のサイコパスだろう。いずれも〝仲間内〟では、「頼りになる人」「説得力のある人」「愛嬌のある人」「良い人」を演じている。いや、サイコパス自身にとっては演じるまでもないことなのだろう。

 

本書を読み、私のささやかな人生の中で出会った何人かサイコパスと思われる人々を思い出しながら、サイコパスは拒絶するものではなく、相手を理解し、適切な距離感を保って遇することが肝要だとしみじみ思う。場合によってはサイコパスとの出会いが、自分の人生の新たな局面を切りひらいたり、ポジティブな方向転換させる重要な契機であるかもしれない。凡人だって、サイコパスを〝利用〟できるはずなのだ。