プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

9・11とボブ・ディラン

 

 

 

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今日は9月11日である。昨夜の地震を、すわ仮想敵国のミサイルか….と飛び起きた私であるが、それがどうした、である。

2001年の今日、ボブ・ディランが新作「ラブ・アンド・セフト」を発売し、それが暢気な純音楽的作品であり、ニール・ヤングとか他のミュージシャンがテロについての真面目なコメントを次々に発する中、ひとり沈黙を守ったため、左右両陣営から「あいつはもうダメ」的な見方をされていた。約5年経って、米上院でイラク戦争の非正当性が議論されるなど、アメリカ人がようやく冷静さを取り戻す中、ディランは続編的な「モダンタイムズ」を発表し、全米チャート1位に輝いた。「欲望」(1976年)以来30年ぶりの首位返り咲きだ。 

 

1960年代、「公民権運動で揺れる若者の代弁者」として熱烈に支持されたディランだが、現在その歩みをふりかえってみると彼は必ずしもプロテストシンガー、あるいはメッセージ性主体のミュージシャンではなかった。純粋に音楽を追究してきた音楽馬鹿なのである。あまりに馬鹿すぎて、パーマネントなバンドも組織できない人である。そこがいいのだけれど。だいたい、プロテストソングの代表曲と目されている「風に吹かれて」の詞は、“深刻な問いかけ“を歌った後、こういう台詞で締めくくられるのだ。

The answer is blowin' in the wind その答えは、風に舞ってくるくると(意訳) 

実は(タイトルからして)おちょくりソングだったわけなのだが、真面目なディランファンは気づかないフリをし続けている。ノーベル平和賞ではなくノーベル文学賞を贈ったノーベル財団の見識は正しい。

 

ところで井上陽水の「傘がない」はコード進行をグランド・ファンク・レイルロード「ハートブレイカー」からパクッていることは有名だが、歌詞の意匠は「風に吹かれて」にインスパイアされているのだと思う。


Bob Dylan - Spirit On The Water - Lucca 2015

「モダンタイムズ」収録曲