音楽という名の魔物
ああ・・・あのソナタは恐るべき作品ですよ。まさにあの部分がね。それにだいたい音楽というのは恐るべきものですよ。
あれはいったい何なのでしょう? 私にはわかりません。音楽とはいったい何なのですか? 音楽とは何をしているのか?音楽は何のためにそのようなことをしているのか? よく音楽は精神を高める作用をするなどと言われますが、あれはでたらめです、嘘ですよ!
10年ぐらい前から発行されている光文社古典新訳文庫に、このトルストイをはじめ、ドストエフスキー、ゴーゴリ、レーニン(!)、シェイクスピア、ディケンズ、シャーロット・ブロンテ、バタイユ、サン・テグジュペリ、カント(!!)、ケストナー、ポーなどの「古典新訳」が多数ラインナップされている。読みたい本がありすぎて非常に困っている。さらに昨年ぐらいからSpotifyを聞くようになってから、聞くべき音楽が増えて増えて、ほんとうに困っている。自分が2人か3人欲しいです。
もはや僕の人生は登山で言えば下山の道行きなのだ。不要なモノはなるべく棄てて、身軽になって安全に麓までたどり着きたいのである。にも関わらず読書と音楽の煩悩は未だ覚めやらず。さらに釣りもしなくてはならないのだ。嗚呼、遭難必至。
それにしても音楽は魔物だなあ。もし自分が音楽という趣味を持たなかったら、もっと平穏な、しかし退屈な人生を歩んだに違いないと思う。家族のためにはその方が良かったのかもしれない。
バッハの規律。モーツアルトの享楽。ジョン・レノンの諧謔。レッド・ツエッペリンの爆発。キング・クリムゾンの迷路。マイルス・デイヴィスの美学。バド・パウエルの熱狂。そうしたものに出会わなければ、ロジックとコモンセンス、そして少々の浮き世の智恵に安住した人生を過ごせたに違いない。しかしもはや取り返しがつかない。僕は言葉を商売道具としながらも、言葉が歯がみをしながら俯かざるを得ない局面における音楽の表現力にいつもひれ伏している。