Indoor Games
「この永い年月のあいだ、どうして私以外の誰ひとり、中に入れてくれといって来なかったのです?」
いのちの火が消えかけていた。うすれていく意識を呼び戻すかのように門番がどなった。
「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのためのものだった。さあ、もうおれは行く。ここを閉めるぞ」
田舎からやってきた男がこの門の中に入ろうとするが、門番は何を言っても、どう画策しても「今はだめだ」という。実は門番は男の強行突破を拒んではいない。が、男は入ることができない…。
上記引用は、歳月が経ち、寿命が尽きかけた男の死の間際の門番とのやりとりであり、この短い小説の終結部である。
時として、〝生き〟て〝逝く〟上での勘違いをしかけるたびに、僕はカフカの『掟の門』に思いをはせる。彼のそれほど多くない作品群には、人が生きる上での正しい希望の持ち様が書かれていると思う。カフカの言葉は、決してメタファーではなく、書かれたそのままである、とようやく受け取れるようになったのは不惑を過ぎてからだ。
この世界で70億以上の人間たちが、それぞれ自分だけの門の前で座って、じっと中に入るのを待っている姿を想像してごらん。素敵じゃないか!
さあ、今日のところは、ここを閉めるぞ。明日は来るのだろうか。
★おまけ
(2曲目に「Indoor Games」所収)