星が見えない夜の地下鉄車内の魔女
窓の外を見ていると、いろんな場面が目に映る。
窓の外を見ていると、いろんな人が生きている。
でもなんかおかしい。どうにもヘンだ。
ちょっとしたことでも見逃すな。
ちょっとしたことでも見逃しちゃダメ。
どんなにつまらないことでも見逃さないように。
だってどうやら魔女の季節がやってきたようだ。
(ドノヴァン『魔女の季節』抜粋拙訳)
都心を貫く地下鉄車内で、前に座っている20代半ばの垢抜けない風体の女性が一心にメールを打っているのをながめている。画面を見ながら、彼女は徐々に悲しそうな顔になった。彼氏に冷たい文面でも送られたのかな、と思っていると、彼女は右手の人差し指を右の鼻孔に挿入した。小柄だが全体としてがっしりした、いってみればロングヘアのお地蔵様といった感じのその女性は、次に、その指をぷっくりした唇の間に差し入れ、舐めた。薄倖の貴女に幸多かれ。....ああ、無性にクリムゾンが聴きたくなってきたぜ!