プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

ポール・マッカートニーのベスト盤発売に寄せて

Pure McCartney (deluxe)

 

 ポール・マッカートニーがまたベストアルバムを出すそうだ。またと言っても前回出したのは2001年だから、すでに15年前か。
 
 その「Wingspan」と名付けられたベストアルバムはウイングス限定だったので、1989年以降のソロ名義の楽曲は、今回がベストアルバム初収録だという。
 

 新しい『Pure McCartney』の選曲はポール本人の主導で行われたらしく、発売に際してこんなコメントが発せられている。

僕と僕のチームがこのベスト・アルバムを選曲するにあたって考えたのは、ただただ楽しんで聴けるものにしよう、ということだけだった。

たとえば、長旅の車中、自宅でくつろぎたい晩、または友人とのパーティーなんかでね。だから僕たちは知恵を絞って、僕の長く曲がりくねったキャリアのさまざまな時期から、多種多様な選曲リストを出し合った。キャリアという言葉はちょっと相応しくないかな。
なぜなら僕としては、“仕事"をしてきたというよりも、音楽の冒険を続けてきたという感じだから。」

  個人的にはまず、ポールの21世紀最高傑作で、ビートルズ後のオールタイムでもベスト3に入れたい『Chaos and Creation in the Back Yard』から3曲も収録されているのを歓迎したい。「English Tea」「Fine Line」、そして涙チョチョ切れの大名曲「Too Much Rain」。どうせならその勢いで「Anyway」も入っていたら.....この『Chaos and Creation in the Back Yard』の素晴らしさについてはいつかまとめてみたいが、なにから話していいのかわからずなかなか手がつけられない。ポール爺の来日公演などいまさら行く気はないけれど、もしこのアルバム主体のコンサートを小さなホールでやるのだったら、万難を排してでも見に行きたい。

 世評で無視されがちな『Wings Wild Life』からもしっかり選曲されているところも喜ばしい。僕はとりつくろった『RAM』なんかよりだんぜん〝Pure〟な『Wings Wild Life』が好きだ。

  しかしである。あの輝かしいThis One」が収録されていない。「Put It There」も収録されていない。「Figure Of Eight」も収録されていない。大ヒットした「My Brave Face」すらも収録されていない。そう、『Band on the Run』と20世紀ポールの最高傑作の座を競う『Flowers In The Dirt』から1曲も選ばれていない…見落としかと思って何度も確かめたが、やはりない…そんな馬鹿な! 『Flowers In The Dirt』の曲は「ただただ楽しんで聴け」ないというのか? 制作時にエルビス・コステロにキツいこと言われたのをポールはまだ根に持っているとか? まさかね…。
 
 ついでに言えば『Flowers In The Dirt』の録音に参加し、その後の来日ツアーメンバーともなったヘイミッシュ・ステュアート(元AWB)とロビー・マッキントッシュ(元プリテンダーズ)という二人のギタリストを擁したバンドが、ビートルズ後のポール史上最強のグループだと私は思っている。この二人にリンダを加えたバンドでのライブは、いや、ほんとに筆舌に尽くしがたい素晴らしさだった。

 ポールぐらいのミュージシャンになるとベスト盤の選曲は困難を極めると言うことは、もちろんわかっている。が、『Flowers In The Dirt』外しの意図が私にはどうしても見えないのである。
 
 本件に関わるポールの真意を知りたい。いや、小一時間、膝詰めで問い正したいぐらいだ! 




Paul McCartney - Too Much Rain (Live Acoustic at BBC Radio 2)   
何時聴いても、何度聞いても、どのヴァージョンを聴いても。泣ける名曲!