プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

カズオ・イシグロ、翻訳、J・D・サリンジャー

カズオ・イシグロさんがノーベル文学賞を受賞して、ファンとしては喜ばしい。で、昨日、イシグロ作品の原文について、海外生活が長く英語に堪能な二人の知り合いの方がそれぞれ「読みやすい」と「読みにくい」と正反対のことを言ってたのが面白かった。原作…

Season of the Insects

ファーブルは高齢になると年金による収入がなく生活は極貧であったと言われている。昆虫記ほか科学啓蒙書の売れ行きもさっぱりであった。85歳を超えたファーブルは健康を損なう事や、横になる事が多くなる。そしてヨーロッパ全土にファーブルを救えという運…

『ポーの一族 春の夢』雑感。

ポーの一族 ~春の夢~ (フラワーコミックススペシャル) 萩尾先生は本気だ。 40年前、紅蓮の炎の中に消えた主人公たちとともに、完全に終焉を迎えたと思われていた『ポーの一族』の物語。昨年、40年ぶりの新作が掲載された雑誌がたちまち完売してしまった騒動…

『ミッドナイト・アサシン アメリカ犯罪史上初の未解決連続殺人事件』 (スキップ・ホランズワース)雑感

ミッドナイト・アサシン アメリカ犯罪史上初の未解決連続殺人事件 本書は「ミッドナイト・アサシン」と呼ばれる100年以上前に米国で起こった未解決の連続殺人犯を追うドキュメンタリーである。僕は知らない街を歩いていて、モニュメントや石碑があるとつい立…

現実の上空2mよりの落下。

モンドがどこから来たのか、誰にも言えなかったに違いない。ある日たまたま、誰も気がつかないうちにここ、私たちの町にやって来て、やがて人々は彼のいるのに慣れたのだった。 (J・M・G・ル・クレジオ『モンド』豊崎光一/佐藤領時訳 冒頭部) このように…

『タモリと戦後ニッポン 』(講談社現代新書) 雑感 〜〝幻想の満州〟から戦後ニッポンを嗤う〜

本書はタモリの足跡を通して 戦後ニッポンの歩みを振り返るというものである。 なぜ、タモリを軸としたのか。 それはまず何より、彼が一九四五年八月二二日と 終戦のちょうど一週間後に生まれ、 その半生は戦後史と軌を一にしているからである。(本書「は…

【書評】『日本神話の源流』 吉田敦彦〜「吹き溜まりの文化」としての日本文化。神話からたどるその特異性と〝グローバル〟性。

渓流釣りをしていると、川の流れは一様ではないことがよくわかる。エサや毛鉤を魚の目の前に送り届けるためには、なにより流れを読む目が必要だからだ。岩やカーブで押し曲げられ、ねじ曲げられた流れはいくつにも分かれ、渦を巻いたり、時には逆流すること…

奇妙な味のタイトル3題〜『夫のちんぽが入らない』『聲の形』『葛西善蔵と釣りがしたい』

レコードやCDのジャケ買いがあるように、小説本にはタイトル買いがあると思う。 たとえば、高校時代に読んだ『芽むしり仔撃ち』や『性的人間』『万延元年のフットボール』『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』といった大江健三郎作品はタイトル買いだった…

April Come She Will 〜今月の読書録〜

なんだかんだ言って本読んでるな。でも、積ん読も多いんですよ。仕事で読んだ本を除いて、今月読み終わった本をざっと紹介してみる。 聲の形(講談社/全7巻) 大今良時 アニメ映画化もされた話題作。設定からは「障害者差別」「いじめ」というタームが思い…

『海街diary 8 恋と巡礼』読了

1年以上ぶりの第8巻が発売されたので、早速購入して読了。『恋と巡礼』....実際に巡礼する場面が出てくるのだが、さまざまな想像を掻き立てる魅惑的なサブタイトルである。 本巻ではこれまでもっぱらお笑い担当で脇に徹していた三女のチカが新しいヘアスタイ…

Der Steppenwolf(荒野のおおかみ)

荒野のおおかみ (新潮文庫) 作者: ヘッセ,高橋健二 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1971/03/02 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 13回 この商品を含むブログ (36件) を見る 街がフレッシャーズであふれるこの季節に、若干の屈託とともに思い出す文学作…

『騎士団長殺し』をめぐる冒険

「歴史の中には、そのまま暗闇の中に置いておった方がよろしいこともうんとある。正しい知識が人を豊かにするとは限らんぜ。客観が主観を凌駕するとは限らんぜ。事実が妄想を吹き消すとは限らんぜ」 (村上春樹『騎士団長殺し』〜 騎士団長の台詞より) 先…

戦争と貧困 〜山田参助『あれよ星屑』へのオマージュ

「貧困」が大きな社会問題となり、実際、奨学金や年金、生活保護などにおいてさまざまな制度的矛盾が露呈してしまっている。 現在55歳の僕が物心ついた頃は、まだ日本は貧しかった。目に見えて貧しかった。わが家はそれほど貧しくはなかったが、身近に貧困家…

アマチュアについて。

テレビ芸人で絵本作家もやっているという人が、ベストセラーになった自分の作品を電子版で無料にしたということで話題になっていた。 キングコング 西野 公式ブログ - お金の奴隷解放宣言。 - Powered by LINE 要は2000円もする自分の絵本を子どもが気軽に買…

類型的な人間 〜11月の呟き

彼もまた、大抵の私たちと同様、罪──果して罪と言えるかどうか分からぬが──を犯すと、一旦は後悔しても、機会が与えられると、再び同じ罪を犯すのだった。気は短かったが、心はやさしく、寛大で、腐敗堕落した時代の人でありながら、人柄は誠実だった。夫と…

信じる者は救われる...かも 〜『イエメンで鮭釣りを』雑感

イエメンで鮭釣りを (エクス・リブリス) 作者: ポールトーディ,Paul Torday,小竹由美子 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2009/04 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 40回 この商品を含むブログ (34件) を見る 「あなたのジョーンズ博士にはコリンと一…

不毛地帯から。

ストーリーは難解で、テーマも稚拙な不毛な作家だったが、ヘミングウェイやフィッツジェラルドなど同年代の作家の中では言葉を武器として戦うことのできる数少ない作家だった。 (村上春樹『風の歌を聴け』) 今年も村上春樹氏のノーベル文学賞受賞がささや…

「川と対話する」近所のフライフィッシング

ザ・フライフィッシング 作者: 森と渓流の会 出版社/メーカー: アテネ書房 発売日: 1987/05 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 暗闇でせんべいをを音もたてずに食べるのと、光のもとでバリッとやってはその表面の醤油の焼けぐあい、割れ口…

『コンビニ人間』を読んだよ。

『コンビニ人間』が掲載された文藝春秋2016年9月特別号。読書のBGMはKISS「DESTROYER」だ! 『コンビニ人間』読了。いやホントにこれは面白い小説だ。久々に(たぶん村上春樹『羊をめぐる冒険』以来)日本人が書いた純文学小説を読んで、心から「面白い」と…

「シドと白昼夢」

www.youtube.com 昔 描いた夢で あたしは別の人間でジャニス・イアンを自らと思い込んでいた現実には本物が居ると理解っていた(椎名林檎「シドと白昼夢」) 加山雄三からマーク・ボラン、デビッド・ボウイ、ジョン・レノン、 さらに、芥川龍之介、太宰治、…

小林秀雄・岡潔『人間の建設』を読んだ。

●人間の建設 (新潮文庫) 小林 秀雄 /岡 潔 (著)先日の土曜日、ふらっと本屋に出かけた際、「新潮文庫の100冊」の中に、この『人間の建設』が入っているのを見て、「ほうっ!」と思い店頭で手にとって冒頭をぱらぱらっとめくってみた。オープニングはこうだ…

男はつらいよ!

おかしな男 渥美清 (ちくま文庫) 1961年の夏、小さな雑誌の編集長をしながらテレビやラジオに出ていたぼくはNHKのドラマで全国区の人気者になりつつあった渥美清と初めて会った。芝居や映画をよく観る勉強家であり、見巧者の彼と喜劇マニアのぼくは親しく話…

井上靖と吉田健一

ところで井上靖って、今、どれくらい読まれているのか。 『天平の甍』『あすなろ物語』『敦煌』『蒼き狼』『おろしや国酔夢譚』といった代表作は、みんな文句なしに面白い小説だ。井上靖作品は映画化されたものも少なくない。そのうち『本覚坊遺文』と『お…

私説・トンデモ日本古代史

『壬申の乱 (戦争の日本史) 』倉本 一宏 著 持統天皇を乱の首謀者とするユニークな「壬申の乱」像を描く。異論はないではないが、論証を含めなかなか注目すべき一説。面白い! ところで日本の建国はいつだろう 僕は日本という国ができたのは、壬申の乱によっ…

書く技術。〜清水幾太郎と本多勝一の文章読本をめぐって〜

話すことと書くこととの間には、大きな距たりがあるのです。だって、そうではありませんか。日本中──というより世界中の人間が朝から晩まで立派に(?)喋りまくっているのに、文章らしい文章が書ける人は、数えるほどしかいないのですから。(中略)文章を…

Indoor Games

「この永い年月のあいだ、どうして私以外の誰ひとり、中に入れてくれといって来なかったのです?」 いのちの火が消えかけていた。うすれていく意識を呼び戻すかのように門番がどなった。 「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのため…

タイプについて。

個人というものを出発点に考えていくと、我々は知らず知らずのうちにひとつのタイプを創りあげてしまうことになる。一方タイプというところから考えていくと今度は何も創りだせない──まったく何ひとつ。 (スコット・フィッツジェラルド『リッチ・ボーイ(金…

朝のコント/春の呟き

彼女を追い越してから、彼は、単純にも、どこかの店先きに立ちどまっていさえすればいいのだと考えた。そうすれば、彼女はきっとそばへ来るはずだ。ところが、彼女はそんなことはしなかった。そのままどんどん歩いていった。 (フィリップ『朝のコント』よ…

秘密の川へ。

喜びに満ちた、自然のままの、どこまでもつづく川の広がり。他のなにものにもかえられない、マスたちが泳ぐ美しい川。きみやぼくの秘密の釣り場、カーティス・クリーク。きみやぼくの人生にそんな秘密の川、カーティス・クリークはどのくらいあるだろうか。 …

学問のすゝめ

昨年の今頃は自分の子どもたちがダブル受験でアタフタしていたが、今年は知り合いの子どもたちの受験の有り様を穏やかな気持ちで眺めている。それぞれの進路を模索する若い人たちの未来が、受験のみで決まるわけではないことは半世紀生きていればわかる。し…