プログレッシブな日々

混沌こそ我が墓碑銘。快楽の漸進的横滑り。

『タモリと戦後ニッポン 』(講談社現代新書) 雑感 〜〝幻想の満州〟から戦後ニッポンを嗤う〜

本書はタモリの足跡を通して 戦後ニッポンの歩みを振り返るというものである。 なぜ、タモリを軸としたのか。 それはまず何より、彼が一九四五年八月二二日と 終戦のちょうど一週間後に生まれ、 その半生は戦後史と軌を一にしているからである。(本書「は…

【書評】『日本神話の源流』 吉田敦彦〜「吹き溜まりの文化」としての日本文化。神話からたどるその特異性と〝グローバル〟性。

渓流釣りをしていると、川の流れは一様ではないことがよくわかる。エサや毛鉤を魚の目の前に送り届けるためには、なにより流れを読む目が必要だからだ。岩やカーブで押し曲げられ、ねじ曲げられた流れはいくつにも分かれ、渦を巻いたり、時には逆流すること…

奇妙な味のタイトル3題〜『夫のちんぽが入らない』『聲の形』『葛西善蔵と釣りがしたい』

レコードやCDのジャケ買いがあるように、小説本にはタイトル買いがあると思う。 たとえば、高校時代に読んだ『芽むしり仔撃ち』や『性的人間』『万延元年のフットボール』『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』といった大江健三郎作品はタイトル買いだった…

April Come She Will 〜今月の読書録〜

なんだかんだ言って本読んでるな。でも、積ん読も多いんですよ。仕事で読んだ本を除いて、今月読み終わった本をざっと紹介してみる。 聲の形(講談社/全7巻) 大今良時 アニメ映画化もされた話題作。設定からは「障害者差別」「いじめ」というタームが思い…

『海街diary 8 恋と巡礼』読了

1年以上ぶりの第8巻が発売されたので、早速購入して読了。『恋と巡礼』....実際に巡礼する場面が出てくるのだが、さまざまな想像を掻き立てる魅惑的なサブタイトルである。 本巻ではこれまでもっぱらお笑い担当で脇に徹していた三女のチカが新しいヘアスタイ…

Der Steppenwolf(荒野のおおかみ)

荒野のおおかみ (新潮文庫) 作者: ヘッセ,高橋健二 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 1971/03/02 メディア: 文庫 購入: 1人 クリック: 13回 この商品を含むブログ (36件) を見る 街がフレッシャーズであふれるこの季節に、若干の屈託とともに思い出す文学作…

『騎士団長殺し』をめぐる冒険

「歴史の中には、そのまま暗闇の中に置いておった方がよろしいこともうんとある。正しい知識が人を豊かにするとは限らんぜ。客観が主観を凌駕するとは限らんぜ。事実が妄想を吹き消すとは限らんぜ」 (村上春樹『騎士団長殺し』〜 騎士団長の台詞より) 先…

戦争と貧困 〜山田参助『あれよ星屑』へのオマージュ

「貧困」が大きな社会問題となり、実際、奨学金や年金、生活保護などにおいてさまざまな制度的矛盾が露呈してしまっている。 現在55歳の僕が物心ついた頃は、まだ日本は貧しかった。目に見えて貧しかった。わが家はそれほど貧しくはなかったが、身近に貧困家…

アマチュアについて。

テレビ芸人で絵本作家もやっているという人が、ベストセラーになった自分の作品を電子版で無料にしたということで話題になっていた。 キングコング 西野 公式ブログ - お金の奴隷解放宣言。 - Powered by LINE 要は2000円もする自分の絵本を子どもが気軽に買…

類型的な人間 〜11月の呟き

彼もまた、大抵の私たちと同様、罪──果して罪と言えるかどうか分からぬが──を犯すと、一旦は後悔しても、機会が与えられると、再び同じ罪を犯すのだった。気は短かったが、心はやさしく、寛大で、腐敗堕落した時代の人でありながら、人柄は誠実だった。夫と…

信じる者は救われる...かも 〜『イエメンで鮭釣りを』雑感

イエメンで鮭釣りを (エクス・リブリス) 作者: ポールトーディ,Paul Torday,小竹由美子 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2009/04 メディア: 単行本 購入: 1人 クリック: 40回 この商品を含むブログ (34件) を見る 「あなたのジョーンズ博士にはコリンと一…

不毛地帯から。

ストーリーは難解で、テーマも稚拙な不毛な作家だったが、ヘミングウェイやフィッツジェラルドなど同年代の作家の中では言葉を武器として戦うことのできる数少ない作家だった。 (村上春樹『風の歌を聴け』) 今年も村上春樹氏のノーベル文学賞受賞がささや…

「川と対話する」近所のフライフィッシング

ザ・フライフィッシング 作者: 森と渓流の会 出版社/メーカー: アテネ書房 発売日: 1987/05 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 暗闇でせんべいをを音もたてずに食べるのと、光のもとでバリッとやってはその表面の醤油の焼けぐあい、割れ口…

『コンビニ人間』を読んだよ。

『コンビニ人間』が掲載された文藝春秋2016年9月特別号。読書のBGMはKISS「DESTROYER」だ! 『コンビニ人間』読了。いやホントにこれは面白い小説だ。久々に(たぶん村上春樹『羊をめぐる冒険』以来)日本人が書いた純文学小説を読んで、心から「面白い」と…

「シドと白昼夢」

www.youtube.com 昔 描いた夢で あたしは別の人間でジャニス・イアンを自らと思い込んでいた現実には本物が居ると理解っていた(椎名林檎「シドと白昼夢」) 加山雄三からマーク・ボラン、デビッド・ボウイ、ジョン・レノン、 さらに、芥川龍之介、太宰治、…

小林秀雄・岡潔『人間の建設』を読んだ。

●人間の建設 (新潮文庫) 小林 秀雄 /岡 潔 (著)先日の土曜日、ふらっと本屋に出かけた際、「新潮文庫の100冊」の中に、この『人間の建設』が入っているのを見て、「ほうっ!」と思い店頭で手にとって冒頭をぱらぱらっとめくってみた。オープニングはこうだ…

男はつらいよ!

おかしな男 渥美清 (ちくま文庫) 1961年の夏、小さな雑誌の編集長をしながらテレビやラジオに出ていたぼくはNHKのドラマで全国区の人気者になりつつあった渥美清と初めて会った。芝居や映画をよく観る勉強家であり、見巧者の彼と喜劇マニアのぼくは親しく話…

井上靖と吉田健一

ところで井上靖って、今、どれくらい読まれているのか。 『天平の甍』『あすなろ物語』『敦煌』『蒼き狼』『おろしや国酔夢譚』といった代表作は、みんな文句なしに面白い小説だ。井上靖作品は映画化されたものも少なくない。そのうち『本覚坊遺文』と『お…

私説・トンデモ日本古代史

『壬申の乱 (戦争の日本史) 』倉本 一宏 著 持統天皇を乱の首謀者とするユニークな「壬申の乱」像を描く。異論はないではないが、論証を含めなかなか注目すべき一説。面白い! ところで日本の建国はいつだろう 僕は日本という国ができたのは、壬申の乱によっ…

書く技術。〜清水幾太郎と本多勝一の文章読本をめぐって〜

話すことと書くこととの間には、大きな距たりがあるのです。だって、そうではありませんか。日本中──というより世界中の人間が朝から晩まで立派に(?)喋りまくっているのに、文章らしい文章が書ける人は、数えるほどしかいないのですから。(中略)文章を…

Indoor Games

「この永い年月のあいだ、どうして私以外の誰ひとり、中に入れてくれといって来なかったのです?」 いのちの火が消えかけていた。うすれていく意識を呼び戻すかのように門番がどなった。 「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのため…

タイプについて。

個人というものを出発点に考えていくと、我々は知らず知らずのうちにひとつのタイプを創りあげてしまうことになる。一方タイプというところから考えていくと今度は何も創りだせない──まったく何ひとつ。 (スコット・フィッツジェラルド『リッチ・ボーイ(金…

朝のコント/春の呟き

彼女を追い越してから、彼は、単純にも、どこかの店先きに立ちどまっていさえすればいいのだと考えた。そうすれば、彼女はきっとそばへ来るはずだ。ところが、彼女はそんなことはしなかった。そのままどんどん歩いていった。 (フィリップ『朝のコント』よ…

秘密の川へ。

喜びに満ちた、自然のままの、どこまでもつづく川の広がり。他のなにものにもかえられない、マスたちが泳ぐ美しい川。きみやぼくの秘密の釣り場、カーティス・クリーク。きみやぼくの人生にそんな秘密の川、カーティス・クリークはどのくらいあるだろうか。 …

学問のすゝめ

昨年の今頃は自分の子どもたちがダブル受験でアタフタしていたが、今年は知り合いの子どもたちの受験の有り様を穏やかな気持ちで眺めている。それぞれの進路を模索する若い人たちの未来が、受験のみで決まるわけではないことは半世紀生きていればわかる。し…

師走の嵐が丘にて。

「エレン、あとどれくらいしたら、わたし、あの丘のてっぺんまで行けるようになる? 丘の向こう側にはなにがあるのかなあ──海?」 「違いますよ、キャシー嬢ちゃん」あたしは答えたものです。「これとおなじような丘が連なっているんです」 (エミリ・ブロン…

太宰治から村上春樹へ

『本の雑誌』最新号(390号)の特集が太宰治だというので早速購入した。特集内容は以下の通り。じつに素晴らしい! ■特集:「太宰治は本当に人間失格なのか?」 対談/ダメ人間作家コンテスト! 西村賢太vs坪内祐三 コラム/編集者某が明かす作家借金伝説! …

日本人は笑えない

三十年間で何が失われたかと言えば、まともな嫌悪感である。(中略)〈良識〉というとおとなしくきこえるが、その元になるのも、嫌悪感である。 (小林信彦「平成つれづれ草」『日本人は笑わない』所収) 上の引用はバブル崩壊後の日本社会の有り様に触れて…

わがソドムへようこそ

ソドムとゴモラの叫びは大きく またその罪は非常に重いので 私はいま下って 私に届いた叫びのとおりに すべて彼等がおこなっているか どうかを見て それを知ろう (大島弓子『わがソドムへようこそ』) 大学4年の春、社会に出る前に裏社会について見聞を広…

退化する意思

ぼくは小さなころから、妖怪っていうのは、本当にいるのではないかと、両親や先生に質問し、そのおろかさをわらわれたことがあった。 ぼくはその妖怪で、いまはめしを食っているわけだ……。 (水木しげる『ほんまにオレはアホやろか』) 自らに内在する探求心…

『フォーカスな人たち』井田真木子再読 〜悲しみの黒木香〜

今週のお題「読書の夏」 Amazon.co.jp: フォーカスな人たち (新潮文庫): 井田 真木子: 本 ところで“わたくし“は女性とは限らない。というより、あまりにも強烈な“わたくし“の前には性差など消し飛んでしまう。たとえば黒木香はまさにその典型だった。彼女は…

飯尾憲士『自決—森近衛師団長斬殺事件』再読

Amazon.co.jp: 自決―森近衛師団長斬殺事件 (光人社NF文庫): 飯尾 憲士: 本 映画『日本のいちばん長い日』のリメイク版が話題だが、その重要エピソードである宮城事件における近衛師団長惨殺に残る謎を、犯人と師弟関係にあった “当事者”たる著者が徹底的に…

おれは間違って生まれた〜『樅ノ木は残った』雑感

——おれは間違って生まれた。 と甲斐は心の中で呟いた。けものを狩り、木を伐り、雪に埋もれた山の中で、寝袋にもぐって眠り、一人でこういう食事をする。そして欲しくなれば、ふじこやなをこのような娘たちを掠って、藁堆や馬草の中で思うままに寝る。それが…

マナーあるいは罪。あるいはどうでもいいこと。

ソドムとゴモラの叫びは大きくまたその罪は非常に重いので 私はいま下って 私に届いた叫びのとおりにすべて彼等がおこなっているかどうかを見てそれを知ろう(大島弓子『わがソドムへようこそ』)すべてはどうでもよいことだったゆえに、父はどこへ行っても…

倭国から日本へ。岡田英弘著『倭国』より抜粋。

僕は古代史に関しては、中国・東洋史のパースペクティブで古代の日本列島を捉えている岡田英弘先生の学説にもっとも納得を感じている。『日本書紀』の周囲をぐるぐる旋回しているだけの「日本史」プロパー学者の説は、どれもファンタジーとしか思えないから…

昭和の人

私はヤマメの五寸、六寸以上のものを釣り上げると、必ず胸の動悸を覚るのだ。これはどういうわけのものだろう。ごとんごとんと胸が鳴る。胸の高鳴りである。大きなやつを釣りあげて魚籃に入れ、次の餌を差そうとしても興奮のため手を震えて餌が差せないのだ…

Aujourd'hui, dans l'histoire...(歴史の中へ)

THE BEATLES 人間、或る程度馬齢を重ねてくると自分の記憶が歴史になっていくやるせなさを味わう。白黒テレビとか、ビートルズとか、全共闘とか。僕は大学のフランス文学科というところを卒業したが、今はその名はない。「フランス語圏文化学科」というのだ…

【一ノ関圭 の新作と『らんぷの下 (小学館文庫) 』レビュー】

鼻紙写楽 (ビッグコミックススペシャル) 作者: 一ノ関圭 出版社/メーカー: 小学館 発売日: 2015/03/20 メディア: コミック この商品を含むブログ (1件) を見る このあいだ、3月に伝説の漫画家・一ノ関圭の待望の単行本『鼻紙写楽』が出版されていたことに気…

【麻薬的誘惑に満ちた歴史エッセイ 〜殿様の通信簿 (新潮文庫) 磯田 道史〜読後雑感】

●Amazon.jp 殿様の通信簿 (新潮文庫) http://www.amazon.co.jp/dp/4101358710 近年はメディアにも引っ張りだこの歴史学者の磯田道史さん。この世に歴史学者は数多くいるが、この人ほど「歴史を生き」ている人は数少ない。出世作の「武士の家計簿」からして、…